「どうしよう」
ウィンチェスター家の末っ子兼、稼ぎ頭の弁護士であるサム・ウィンチェスターは、さっきからリビングで呻いていた。
「大事な裁判の証人に悪魔が憑いてたんだよ」
「へえ」
「ほう」
対して、リビングでくつろぐ家族の反応は薄い。父ジョンは野球中継から目を離さず、ディーンはカウチに転がったままだ。
「・・・なんか皆冷たくない?」
とたんに末っ子はムッとし、まあまあと母メアリが冷やしたレモネードを注いでやる。
仰向けで雑誌をめくっていたディーンはちらりと視線を向けるが、すぐに雑誌に視線を戻してしまう。
「だーって珍しくもねえよ。俺は今週毎日悪魔づけだったし」
「それは事件を追ってくんだから会って当然だろ。こっちはもとから知ってる相手だぞ」
週末にちょっと大事な訴訟の法廷があるのだ。そこで証言をしてくれる人物と今日、打ち合わせをしたのだが。
「・・・・悪魔が憑いてたんだよ…」
今までは本人の自宅や外で会うことが多かったのだが、サムのオフィスで最終確認をしていて気付いたという。
「なんで今ごろわかったんだ?」
やっぱり今一つ緊張感なく、ディーンが訊ねる。
「オフィスで話して、帰ろうとしたら一瞬だけど煙を吐いた」
いつぞや製品化を目論んだ悪魔祓いCDの環境音楽版をオフィス入り口に流していたのだが、なぜか入るときはスルーで、出るときだけ効いてしまったらしい。
「効果にムラがあるのか・・・」
ジョンが呟くのを、
「CDはもういいんだってば」
とサムがイライラとさえぎる。
「「「…で?」」」
奇しくも家族の問いかけはハモった。
「で、って」
ハモられた末っ子はへどもどする。
「お前は何を困っているんだ。祓うのが手こずりそうな悪魔なのか」
ジョンが尋ねてくるのにサムは首をふる。
「そうじゃない。ごく一般的な悪魔だと思うよ」
お茶の間の団らんとしても一般的なハンター同士の会話としても問題のある内容だが、ウィンチェスター家においては誰も気にしない。
「お前に気づかれて証言を止めそうなのか」
「いや、もともと憑いてたみたいだし、余所見してた振りをしたから、それは大丈夫だけど」
「じゃあ、何も問題ねーじゃねーか。」
ディーンがさらに面倒臭そうな声を上げる。
「証言が終わったら始末すりゃいいだけだろ」
「…」
両親も揃ってうなずく。
「証言と引き換えに契約でも持ちかけられたのかと思ったわ」
メアリがほほほと笑いそうな声でいう。
「問題ないな。始末に行くときは呼ぶといい」
「・・・うん・・」
ジョンの言葉にサムはちょっと複雑そうな顔でうなずいた。
そして後日。
「騙したな!!」
縛られた悪魔が悲鳴のような声を上げる。
「予定通り証言すれば見逃してやるって言ったくせに!」
「見逃しただろう今日まで」
「裁判からまだ2日だ!」
「その間に退散すればよかったな」
しれっとした顔でサムがスペルを唱え、悲鳴を上げた悪魔は煙になってゴボゴボと地中に消えた。
その後姿をサポートに来た家族が微妙な表情で見つめている。
「・・・サムったら取引を持ちかけて、見逃すかどうかで悩んでたのねえ」
「お前、今みたいなの人間相手にやるなよ?信用落ちるぞ」
振り向いた瞬間、母と兄に同時にたしなめられたサムはムウと口を尖らせた。
「だって、証言はないと困るし、悪魔を見逃すのもなんだしさ」
その肩をジョンは力強く叩く。
「悪魔相手だ問題ない。上手い手だ。よくやった」
うむうむと頷かれて、今度はサムが微妙な顔をする。
「うん、ありがとう。でもあんまり詭弁を使う癖はつけないほうがいいよね、うん」
そして頷きながらそそくさとオフィスの床に書いた魔方陣をスポンジで消し始める。
「・・・・なぜだ?」
憮然とするジョンの肩を、今度はメアリが
「サムも難しい年頃だから」
と撫でるのであったとさ。
おわりおわり
なんか久しぶりすぎて色々忘れてるぞ?弟にあまり構わない兄貴ってすごい不思議だわ・・・Hな様!いいっすか?これでほんとにいいっすか??
[17回]