「気を付けろよ!」
予想外に大きな声で咎められ、しかも腕を掴まれてディーンはいささか驚いた。
どう考えてもどうということのない事態だ。森の中で辺りを見回していて、木の根に少しつまづいただけ。しかもちゃんと踏みとどまった。なにか言うにしても、せいぜい
「足もとを見ろよ」
くらいが適正な範囲だと思うのだが。
だが、文句をつけようと振り返って目を剥く。なんとサムはひきつった顔をして微かに涙ぐんでいる。
「おい、なんだどうしたサミー」
とたんに心配モードになってしまうのは兄の本能だ。そして弟という生物はそれに遠慮なく乗ってくる。
「だってこの間も、なんにもないところで急に倒れたじゃないか」
この間、がなにを指すのかは明らかだ。何せディーンが復調して一ヶ月も経っていない。
「ありゃ魔女の呪いだっただろ」
「唐突なよろめきかたがそっくりだった」
「今日よろめいたのは木の根だ!」
ぐすぐす言わんばかりに詰られて、お兄様の心配モードはさっさと終了する。見当違いの不安にまで付き合っていられない上に、思い出したくないことまで連鎖して思い出してしまった。
ボビー達が隠されていた呪いのアイテムを処分してくれて謎の死にかけ状態から復調したのはよかった。だが、それまでに結構な日数を寝たきり&飲まず食わず状態で過ごしたため、いざ動こうとすると筋肉もめっきり落ちてヘロヘロになっていた。
それでもただのヘロヘロ状態からのリハビリなら今までも経験ずみなのだ。今回不幸だったのは心配全開の「夫」がトレーナーよろしくずっと引っ付いていたことだ。
文字通り手取り足取りを実践し、
「ハードなトレーニングをやたらとするのがいいとは限らないんだよディーン」
と、ディーンが自己流のワークをしているのを邪魔しに来ては、医者の回し者のごとく説教した。点滴続きだったディーンがいきなりハンバーガーを食べようとするとこれまた飛んできて邪魔をし、ヤギの餌以下のスープから始めろといってきかなかった。オートミールなんぞ口にしたのはきっぱりすっぱり年単位で昔だ。スプーンをぐいぐい口元に突きつけられた食事時は、今思い出しても呻いてしまう。
数日はボビーの家にいたのだが、かいがいしくディーンの世話をやくサムと、それを見つめるエレン親子の視線でだんだんいたたまれなくなってきた。
そして最近やっと弟に戻っていたというのに、これか。
だから、
「お前までかよ・・・」
と思わずディーンが呟いてしまったのは無理もない。
無理もないが、うかつだった。
「誰のこと言ってんの?」
サムが後でぴたりと止まる。
うお、しまった。
ディーンは内心ぎくりとする。
「誰か、兄貴の今の状態を知ってる奴がいるってことだよね」
聞き逃しておけばいいものを、弁護士志望だった弟は追及してくる。
「そのうんざりした口調は、どっかで遊んだ女の子って訳じゃ無さそうだね」
「・・・あのな、こないだまでボビーの家にいたんだぞ俺らは」
「ボビーたちはそんなにディーンの容態にぴりぴりしてなかった」
「あーそーかよ」
どつぼにはまりそうなのでブツブツ言うサムを放置してどすどす歩く。ここらで一つワーウルフでも飛び出してこないものだろうか。展開がヤバイ。
だが、内心のひそかな祈りは空しく、サムは歩きながら嫌な方向に勘ぐりを発展させていった。
「・・・もしかして、バレンタインの時の奴とまだ連絡取ってるの?」
それはおめーだ!!
半分切れかけて振り向くと、これまた何ともイラついたようなサムの顔がある。その顔が、ふとくしゃっと歪んだ。
「・・・・そんなに隠さなくてもいいだろ。別に、反対してるわけでもないし」
ディーンは深くため息をつく。
「いねーよ誰も。バレンタインの相手はどっかの美女だっつったろが」
「ディーン」
「行くぞ、ほら」
話を打ち切ると歩き出す。
黙々と森の中を歩きつつ、狩の調査のことはどちらの頭からもきっと飛んでいた。
とかとか
どこが祝いだ!?との疑問はごもっともですSめさま!でも更新するのが本日精一杯でして、なんでこんな内容かは私も疑問・・・どーすんじゃろう。
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