「『可愛い』について兄弟に聞いたのだが」
酔いつぶれたサムをやっとモーテルに連れ帰り、ベッドに文字通り放り投げたディーンがやれやれと肩を回していると、いつの間にやら消えていた天使が後ろに立っていた。
「ああ!?」
声が剣呑になるのは仕方が無い。天使の力でぱっと運んでくれるような気働きはもともとこの天使に期待していないが、100キロ超えの弟を運ぶ際の人手が消えたのは痛かった。
「『可愛い』とは 小さいもの、弱いものなどに心引かれる気持ちをいだくさま。
いかにも幼く、邪気のないようすで、人の心をひきつけるさま。あどけなく愛らしい。
物が小さくできていて、愛らしく見えるさま。
無邪気で憎めない、・・・等と聞いた」
「・・・・で?」
どこの辞書の丸読みだという感じにどどどと定義を並べ立てられても、あいにくサムほどではないがディーンだって酔っ払いだ。もとから分からん天使だが、何を言いたいのかいつも以上にわからない。
「サムは小さくも弱くも幼くもないがディーンは『可愛い』と繰り返す。不可思議だ」
天使は人間に理解されなくても特に痛痒を覚えないらしい。わかっちゃいたけど。
「・・・あーそーかよ」
付き合ってられないので上着を脱ぎながらぼりぼり腹を掻く。
「人間は不可思議なんだよ。俺は寝るぞ」
「分かりやすい『可愛い』について聞いたのだが」
天使はもう少しだけ空気を読んだ方がいいと思う。
「サムは小鳥と似ているのか」
「はああ!??」
目が覚めてしまった。
「可愛いものの例を聞いてきた」
「・・・・そうかよ」
どうも付き合わないと寝かせてもらえないらしい。
「花と似ているのか」
「ねえって。どこをどう見たらこんなゴツイ奴がお花に見えるんだ」
「カルガモとは似ているか」
瞬時、親鳥の後をついてフリフリと身体を振りながら歩くコガモの姿が脳裏に浮かんでしまう。サムがカルガモに似ているかと言われると別に似ていないと思うのだが、あのコガモのチョコチョコと歩くさまは、伝い歩きを始めたころのサムを思い出さないでもない・・・
「・・・ま、多少な」
「子犬はどうだ」
「それは似てる」
深く考えるのも面倒くさくて、印象で答える。
「リボンとは似ているか」
「ない」
天使がリボンとは何だと思ってるのか猛烈に突っ込みたいが堪える。天使はどこかを見ながら「やはり生物か・・」とか呟いている。
「ハムスターは似ているか」
「あー、・・少しな」
「リスは似ているか」
「似てる。特に回転車を延々と回してるとこなんか特に」
「幼子と似ているか」
「サミーは昔それこそ幼子だったっての」
「似ているのか」
「似ちゃいねえけど」
「・・・・そうすると君はサムは君よりも大きく弱くもなく幼くも無邪気でもないが、君が見るサムは幼子やカルガモと子犬とハムスターとリスに似ていて、それゆえに君はサムが可愛いように感じるということか」
「・・・あー、そーかもな・・・」
ハムスターやリスはおろか、子犬でさえも実物を見ることはそう無いが、ボケ天使の兄弟(天使か?)が例として挙げたそれらのイメージは、小さいころのサムや今のぷんすかした様子に重ならないことも無い。
だが一方でディーンが道で子犬やリスを見たところで別段心を動かされもしないのだが、もはやサムとリボンを併記してくる天使に言って聞かせる気力はなかった。
シーツの上に倒れこんだディーンの耳に、
「ふむ。共通項は四足か」
という天使の声が聞こえたので「ちっこいサムはちゃんと立ってたぞ」と抗議しようと瞼をこじあけたが、気が済んだらしい天使はさっさと消えていた。
「それを言うなら哺乳類だろうが・・」
枕に突っ伏したままぶつぶつと口の中で呟く。
大体自分はそんなにあのガキを『かわいい』なんて言ってただろうか。
確かに巨大化しようがムキムキ筋肉になろうが額が何だか広くなろうが、動き、話しているサムの姿を見るのはディーンにとって人生の重要課題だが。
生きているだけで可愛い。
動いているのを見るだけでいい。
ときどきはまあ、それをムカつきや怒りが上回ることもあるけれど。
可愛いものはそこにあるだけで可愛いので、それが自分をどのくらい好くかどうかまではあまり気にかけない。それこそ生き物は思い通りにはならないものなのだ。特に弟なんて生き物は。
翌朝、ディーンがヨロヨロと起き上がると、潰れていたくせに天使との会話を聞いていたらしいサムが、
「なんだよハムスターって!!」
といきなり青筋を立てて詰め寄ってきた。
「大丈夫だ。お前の方がでかい」
寝起きに至近距離で喧嘩を売られたにもかかわらずお兄様が穏やかに流してやったと言うのに、100キロの哺乳類は
「ああもう!」
とか言っていきなりベッドの上に人を倒して乗っかってくる。
たとえ朝から訳の分からない絡み方をされたとしても、やっぱり弟が可愛いという根本は揺らがない。だがしかしそれと今の状況とは別問題なので、遠慮なく急所と腹を蹴り上げてやる。
ぎゃっと呻いて突っ伏す巨大生物を横に転がし、ディーンは首をかきつつバスルームに向かった。
お兄様というモノは弟が可愛くてもやる時はやるのだ。
とかとか
いやー、11日に書きながら途中で寝たらしく、何にモワモワきて書きだしたネタだったのかさっぱり忘れてしまいました(汗)だったら消せばいいのに無理矢理続ける・・・なんかあったんだよ何か。
[25回]