超堅気の仕事をしてる弟と同居した兄貴は、偽造カードも使わず、弟の預金にも手をつけずに暮らしてるのだが、一箇所で長く働かず、結構転々としてる。
そして偶然サムは兄貴の旧職場の人と話すことがあって思わず聞きほじってみると、どうやらディーンは仕事自体は問題なくこなしていたのに、人間関係が近くなって来たとか言って辞めてしまったらしい。
サムは(あーあ)と思うが、それでもディーンが普通に働いてるだけ大変化だし、別にそれでディーンにどーのこーの説教するでもなく、同居は続いていると。
が、ある日たまたまボビーと兄貴がその件で話してるのを聞いてしまう。
場所はサムの部屋、ボビーが久しぶりに訪ねてきて、サムの就職を喜んでくれる。そしてちょっとサムが席を立って戻ってくると、二人がその件について話してると。
「なんだ、また辞めたのか。仕事は合ってるとかいってたくせに」
なんてボビーが言うと、ディーンが
「だってなあ、一時期ならともかくずっと同じところにいるんだぜ。辞めない限りずっと続くってなあ」
とかブツブツ言う。
良くも悪くも定住しない暮らしをしてきたので、継続する人間関係に慣れないらしい。
「それに今まであれこれ仕事をしても、全部その後の狩のためだったのがさ」
一時しのぎとか身分詐称とか、狩のための必要から結構色々な知識もスキルもあるし手先も器用なのだが、それを本業にするのにも慣れないという。
話としては、とにかく定住と定職に慣れないのだ。今の暮らしは苦痛なのかな、と聞いてるサムは思う。
「でもサムがな」
とディーンが言った時、サムは咄嗟に例の『サムを守らないといけない』と言うのかと思い、ちょっと苛立ちそうになる。が、続いた言葉は
「あいつから家に来いなんて言ってくれると思わなかった」
「そうだな・・・」
なんだかボビーもしみじみと頷いている。
「夢見てんじゃねえかと思う」
「そうだな・・・」
ものすごくしみじみと頷かれている。
確かに自分は止める兄を振り切って実家を出て行ったけど。
「電話がつながらなくてもあいつが無事なのが分かる日が来るなんて」
「そうだな・・・」
大げさな。いや、確かにかかってきた電話に出ない時期もあったけど。
「生きるか死ぬかの時でなくても話ができる日が来るなんて夢にも思わなかった」
「俺もだ」
これまた大げさな。いや、確かに『元気か?』とか用もなくかかってきた電話を『元気だよ。じゃあ忙しいから』って言って切ったことあったけど。
「一度出ちまったら、もうあいつから間違っても一緒に住もうなんて言わないだろうし」
「それは無いな」
二人してそこは一ミリの疑問を挟む余地もない様子で頷きあっている。
「だからまあ、諸々めんどくせえが仕方ない」
「確かにな」
おかしい。
僕はディーンに愛されてることを1ミリグラムも疑ったことは無いのに、なんで相手はあんなに僕を信用しないのか。
定住に慣れない兄が、明らかに居心地の悪い思いをあちこちでしつつ、それでも自分と一緒に暮らせることが重要だと思ってることに大変満足しつつ、どうやら自分が兄を誘ったのは一過性の気まぐれとみなされているらしいこと、自分の家族愛には全く信頼が置かれていないことが分かり、客観的に見てそれが否定できないことにサムは憤慨しつつも憮然としちゃうのでのであったとさ。
そしてなんかの折に、
「僕がディーンに一緒に住もうって言ったのは、別に気まぐれじゃないからな」
なんて言うと、
「わかってるさサミー」
と、相変わらず
(その時々でお前は真剣にそう思ってんだよなー。ただ気持ちが変わりやすいだけなんだよなー)
と諦観オーラを出されちゃって、やっぱり信用されない自分にへこむとよろしい。
とかとか
9日に書きかけて放置していたらもう12日・・・
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