サミ誕の敵はも ば げ ーです。
21時を過ぎてやっと取り掛かりました。サミ誕企画第2弾。
えーと、たまには普通の兄弟とかどうだろう。
そしてこう、たまには定番の「こんな感情は間違ってる!」と悩むさみたんとかどうだろう。
とりあえずチャレンジだ!←誕生祝いの主旨を忘れかけている。
「・・・だから僕はずっと、この感情は僕たちの異常な環境から来る一種の錯覚だと思おうとしていたんだ」
苦悶に満ちた表情でサムは呟く。
「だって、実の兄貴だよ?いかに顔が多少良くたって、どこからどう見ても男だ。しかもがさつな。・・・なのに止められないんだ。兄貴を見る自分の目がどんどんおかしくなっていくのがわかって、それが兄貴や、他の周囲にもいずれ分かってしまうんじゃないかと思って怖かった。だから一時期頭を冷やそうと思って離れたんだけど・・・」
口を歪めて笑う。
「でも、全然だめだった。何年ぶりかで会ったら、その瞬間にもうグアッ!だよグアッ!無精ひげも生えてるし相変わらずがに股だしごつくなってるのに、兄貴だって認識したらもう全然関係ないんだ」
グアッ!と言うたびにガバッと両手を振るので、物凄くはた迷惑だ。
「こりゃもうだめだって思った。で、もうけりをつけようと思ってさ、誕生日の日に、兄貴の機嫌が良さそうなタイミングを見計らってキスしてみたんだよ、そしたらさ!」
どん!とテーブルを叩くのでグラスが跳ねる。
「兄貴のやつすっごく嬉しそうな顔して笑ってさ!これはいけるか?って普通思うじゃない、思うだろ?そしたらその次が何だと思う、20歳もとうに過ぎた男の頭撫でてさ、『なんだよ、えらく珍しいなサミー。10年ぶり以上じゃねえか?』だって!ばっかじゃないのか珍しいんじゃないんだよ大決断の末の決死の行動なんだよ!!20歳も超えていきなり幼児返りするわけがないじゃないか兄馬鹿もいい加減にしろっての!!」
だんだん声がでかくなっていき、最後にはあーもう、と頭を抱えてカウンターに突っ伏す。
両隣の客はとっくに退避済みで、カウンターの中では中年のバーテンが背中を向けている。
「・・・・・・」
「連れて帰らなくていいのかディーン」
悪酔いの権化のようになっているサムの後方、カウンターからはやや離れた席には、これまた苦悶の表情を浮かべたディーンが座り、向かいにはぼーっとした天使がコートのまま座っている。
「帰ろうとしたけどごねやがったんだよ」
「君は帰らないのか」
「帰りてえよ今すぐ!でもあんな迷惑な物体残して帰ったら、うっとうしがった誰かにぶっ殺されるかもしれないし」
「どうするのだ」
「潰れるのを待ってんだよ」
今出ていくと、あの泥酔馬鹿弟は酒場の真ん中で、
「これが件の僕の兄貴です」
と大宣言しそうだ。もうこの酒場ではナンパはすっかり諦めたが、その恥を回避することは諦めていない。
「いつだ」
サムの方をぼーっと見ているカスティエルが視線をそのままに呟いた。
「はあ?」
「サムはいつのことをあんなに嘆いているんだ」
「今日だよ」
「・・・では、サムは今日が誕生日か」
「そーだよ」
「大決心の末の決死の行動とは大事だ」
「ああ?それどころじゃねーよ。あの巨大物体をどうするかの方が大問題だ。・・あああ、置いて帰りてえなあ・・・でもさすがに誕生日に簀巻きで転がされたら不憫だしなあ・・」
サムの大決心と決死の行動は、残念なことに兄の心からは見事にデリートされていたが(弟の長年の心情よりも、無事に宿まで連れて帰って寝かすことに兄貴の脳みそは占められている模様)、そろそろ潰れたかと思って担ぎ上げようとしたディーンは、
「何だよ、迎えに来いなんて言ってないだろ!」
というプンスカした弟君の文句のおかげで、見事に「ああ、あれがその兄貴か」と酒場中に認識され、酒場の真ん中を引っ張って歩いてる最中の、
「誕生日なのに・・・」
という寝惚け声のおかげでこれまた見事に「ああ、今日の話なのか」と認識されたのであったとさ。
サムの積年の想いが実ったかは定かでないけれど、サムは簀巻きにも死体にもならなかったのでめでたしめでたし。
という感じで。
・・・ううむ、定番はやはり難しい。
[38回]
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