「残念ねえ」
夕食のテーブルに料理を並べながらメアリが言った。
「そうだね」
答えるのは大きな野菜の盛り合わせプレートを運んできたサムだ。
ディーンは自分の席で肘をついたままテレビの方を向き、ジョンは何となく食堂の中をうろうろしている。
いつもと違うテーブルクロスに、いつもよりも良い食器が並び、いつもよりちょっと豪華な料理と飲み物が出ているのだが、囲む面々はいつもと同じウィンチェスター一家だ。
ディーンの隣にいつもはない椅子が置かれているのだが、残念なことに用無しになってしまった。
ガーリックとペッパーを効かせたスペアリブを皿に山盛りにし、隣にゴーダチーズとマカロニのキャセロールを置く。さらにその隣にトマトとハーブを乗せた魚料理とこれまた山盛りのカップケーキが出るに至って、ジョンがついに言った。
「・・・作りすぎじゃないのか」
「だってお料理好きな娘さんだっていうから、張り切ったのよ」
「食べるのが?作るのが?」
サムの疑問に答える声は無い。
町一番のいい男を自認するディーン・ウィンチェスターは、誕生日のディナーで今度こそ彼女を家族に紹介するはずだったのが、例によって直前にお別れしてしまった。
いつも賑やかな兄はむっつりし、弟は何となくニヤニヤしている。
「・・・何でいつもこうなるかなあ」
「何でだろうね」
30代の男にしては有り得ないほど実家大好きだったり、家族揃って兼業するのが命の危険のあるハンター稼業だったりと、ディーン好みの自立してはっきりして現実的な大人の女が逃げる可能性はなんぼでもある。
「どうしても結婚したい子がいたら、式が終わるまで狩のことを黙っていてあげてもいいわよ」
しょげた息子を不憫に思ったのか、メアリが慈愛深い口調で言う。引退してもいいわよ、ではないところがミソだ。
「マム、それ下手すると経歴詐称で訴訟ネタになるから」
とサムが言えば、
「いや、マム。うちがハンターなのって町中知ってるし」
と、ディーンが重ねる。
町の雑貨屋で「ウィンチェスターさんの家は」と場所を尋ねて、「車の用事かい悪霊かい?」と訊かれた前の前の彼女が、そのままお別れメールをディーンに送ってきたのは商店街でも語り継がれているエピソードだ。
「足を洗うつもりだったとでも言えばいいでしょう。私たちからは何も言わないから」
アワアワする息子たちの様子にメアリはふん、と鼻を鳴らしジョンは複雑な顔をする。
若き日の両親にも何事かあったのかもしれない。
「また誕生日なのか」
突然空席になってしまった椅子の後に天使が立った。
「よお」
「肉料理があると出てくるよね」
息子たちの反応は両極端だ。
「この間もディーンは誕生日を祝っていた」
「1年前だろ」
答えるのはなぜかサムだ。
「また祝うのか」
「そーだよ。毎年祝うの!」
「忙しないな」
「・・・全然忙しなくないよ」
百年千年単位で物事考える天使の基準で言われたくない。
「いいからキャスも座れ。食事にしよう」
ジョンの一声で皆席についた。グラスに注がれたのが仕事先のパーティで使われるようなシャンパンだと気づいてサムがそっとメアリに囁く。
「・・・・こんなに張り込んで大丈夫なのマム」
「安心しなさいサム。引き落としは再来月よ」
会計担当2人のヒソヒソ話を尻目に、父に酒を注いでもらって気分を立て直したディーンは、ケラケラ笑いながら天使に肉をどんどん食べさせている。
前回も全く同じ展開だったな。
そう思いつつカスティエルは、恐らくそれを指摘するのは誕生日にふさわしくないのだろうと判断し、黙って料理を咀嚼する。
人の世の営みは天使には分からないことが多いものだ。
ウィンチェスターさんち、といった時に、まだ「弁護士に用かい?」とは言って貰えないんですよねー(笑)
というわけで、おにーちゃんお誕生日おめでとう!!
[21回]