※例によってすでに付き合っているという前提で
「ねえ、あんたの誕生日っていつ?」
ディーン・スミスのオフィスでサム・ウェッソンがそんなことを聞いてきたのは数日前だ。
書類仕事の合間の、ふとした会話の流れだったと思う。何と答えたか忘れたが、適当に濁したことは確かだ。
なぜならば、ウェッソンがそれから何度となく
「で、何月生まれなの?」
だの
「何座になるのさ」
だのと聞いてくるからだ。最初の一回はともかく、その後は自然な疑問というより無理矢理話の流れをそちらに持っていっている。
仕事中はそれでも出入りするスタッフもいるのであしらっていたディーンだったが、帰りの駐車場でさすがに切れた。
「しつこいぞ君は!俺の誕生日が何だって言うんだ。占いマニアかもしかして」
ややオタクっぽい所のあるウェッソンへの嫌味はもちろんわざとで、意外に怒りっぽいウェッソンは分かりやすくギリギリと眉を吊り上げた。
「あんたこそ、なんで隠すんだよ。そんなに僕に知られたくないのか」
「そんなもん知ってどうするんだ」
「決まってるだろ、祝いたいんだよ!」
「祝うって態度かお前のそれは」
「だってあと2日しかないじゃないか!さっさと言えよ!!」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
駐車場に落ちた沈黙には二重の意味がある。
ああ、そういえば今は1月で22日だったな、という思いと、もう一つ。
「・・・・君はまた人事のデータベースを勝手に見たな・・・」
「・・・悪いと思ってるから、あんたの口から言って欲しかったんじゃないか。もう!準備する時間もなくなるだろ」
盗人猛々しいというか、開き直るというか、大の男がふくれっつらで地団太を踏む図、というのは何をどう擁護しても見目のいいものではない。大人としての態度でもない。
それを許容してしまえるところが自分の少しおかしいところなんだ、とディーンはちょっと遠い目になって思う。
「じゃあもう、しょうがないから確認するけど1月24日だよね?!」
「ああ」
だから何でそんなにえらそうなんだ。という台詞はこの際飲み込む。だってだってと幼児化するのがこの短い付き合いでも分かっているからだ。眉間に皺を寄せつつディーンが頷くと、ウェッソンが一転してにこーっと笑った。
「お祝いしようよ。24日の予定って開いてる?」
「A社の創立記念パーティに出席してる。隣の州で」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
駐車場には再び沈黙が落ちる。
2人が言い合っている背後にはさっきから大勢の社員が視線をそらして通り過ぎているのだが、双方さっぱり気づいていなかった。
これでも2人は関係を秘密にしているつもりなのだ。
ちゃんちゃん
ああ、睡眠って大事!
今日もちゃんと寝よう!!
[21回]
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