ある日ボビーの携帯にディーンから電話がかかってくる。
『なんだかこの頃やばいんだボビー』
またバスルームこもっているらしい。シャワーの音がする。
「ああ、昨日サムからも相談があった。だいぶ思いつめてきてるな」
『なんとかあの呪い解けねえかな…』
「過去の事例を見ると、基本的には、思い込みが満足すると解けることが多いようだ」
『というと?』
「なにか、持って行きたがる流れがあるだろう。…それに乗ってやったらどうだ?」
『あれをか?』
「それをだ」
『それって…』
「言わせるな!!!!!!」
『〇×▲△☆………!!!』
途端に受話器から響き渡る罵詈雑言に、ボビーはセルフォンを思い切り耳から遠ざけることになった。
切られてしまったので、あきらめてバスルームから出てくるディーン。
考え込みすぎて、シャワー浴びるのを忘れている。
資料を読んでいたサムが、ちょっと眉を上げる、が何も言わない。
ディーンはそのままベッドにつっぷしている。
「ディーン」
しばらくしてからサムの気配が近づいてきて、そっと首筋に大きな手が触れてくる。
「夕飯買って来る。何か食べられそう?」
「チーズバーガーとポテト。チリ。食えるに決まってんだろう」
病人じゃねえよ、つかおかしいのはお前なんだぞ。
ちっとも呪いが解けない弟に、面と向かって言ってやるわけにもいかず、思いっきりぶっきらぼうな返事をするにとどめる。
元気な弟ならば、ここでひとくさり文句がくるところだ。でも、おかしくなっている弟は
「OK。今日はオニオンはいいの?」
なんて訊いてくる。
「・・・・入れる」
オニオンに罪はない。
「了解」
首筋をゆっくり撫でていた指が離れていく気配に、思わず顔を上げたら、じっと見つめていたらしいサムと目が合った。
あ、まずい。
サムの顔が近づいてくる。顔と一緒に胴体も近づいてくる。
まずいぞまずい。ここはベッドの上じゃねーか。
『持って行きたがる流れがあるだろう』
とっさに動けなかったのはボビーのアドバイスのせいにしておく。
ベッドに乗り上げてきたサムが、ゆっくり身体を仰向かせて抱きこんでくる。
「心配しないで。何もしないよ」
いや、お前それはこれから何かしようとするときの定番セリフだろうが。俺はあんまり使わないけど。
持って行きたがる流れに乗ったら、呪いは解ける可能性がある。
ぐるぐるしながら固まっていると、こめかみにキスを落としながらサムが呟いた。
「ごめんね。ディーンを困らせているのはわかってる」
いや、わかってない。優しいお兄様を困らせてるのはその通りだが、根本が分かってないんだぞお前は。
だが髪を梳く指と、抱きしめてくる腕にセクシャルな色は薄い。ほ、とディーンは身体の力を抜いた。
サムがゆっくり顔を離し、ディーンの瞳を覗き込んでくる。
「でも、愛してるよ、ディーン」
『満足すると呪いは解ける傾向がある』
負けるな俺。弟の呪いを解いてやれ、俺。
「俺も、お前を愛してるよ、サム」
視線を合わせて言い切る。にっこり笑ったサムがもう一度身体を抱きこんできて、ベッドの上でゴロゴロ転がる。
こちらからもでかい身体に腕を回して、くせのある髪をぐしゃぐしゃなでてやったら、自然に笑いがこみ上げてきた。
『・・・で?』
「なのに解けねーんだよ!!」
『まあ、足りなかったんだろうな』
「なんでだーーーーーーー!!」
男としては足りなくて当然だろうが、あの流れで俺は精一杯妥協したぞ!
・・・だが、男としてあれで足りないのは当然だ。お前はその点では正常だぜサミー。
結局、ベッドの上でひっつくという項目が増えただけで、相変わらず呪われたままの弟なのであった。
いや、それがどうした、という感じなんですけどね。
浮かんできたのは出しとかないと・・・