自分の兄はこんな人間だっただろうか。
久々に兄の『狩』を間近に見て、サムは戦慄した。
速く、鋭く、恐ろしく無駄がない。
単純な羨望と、今の自分への心許なさがちらりと頭を掠める。
どこか呆然としながら、サムは目の前であっという間に『悪魔』を『殺す』ディーンの背中を見つめていた。
不可解で不吉な警告を残して去ろうとした兄を引き止めると、露骨に
(仕方がないな)
という顔をして振り返り、
「身近なのだけでも片付けて行くか?」
と呟いた。
そして、この場面だ。
部屋に入ってきた学友の一人が、ディーンの描いたサークルに捕らえられた途端豹変する。
知り合った数年前からずっと自分が語りあっていたのが悪魔だったとは、欠片も気づかなかった。
サムが家業に加わっていた頃、狩りの対象は、ある法則なり本能なりで動く、恐ろしいがシンプルな魔物が多かった。
サムは「子供」あるいは「邪魔をするハンター」という意味で襲われたことはあっても、「サム・ウィンチェスター」と名指しされ、明確な悪意と、知性を持って狙われたことはない。
それだけでサムは戦慄したというのに、ディーンは慣れたようにそれをおびき寄せ、捕らえ、狩った。
そしてまた、
「じゃあな」
と背を向ける。
サムは拍子抜けした。
サムの知るディーンだったら、明らかについたハンターとしての格差や、サムが悪魔に気づかずにいたこと等について何かしらのからかいや、冷やかしを口にしそうなものだった。
だが、兄はそんなことには全く関心が無い様子で立ち去ろうとしている。
「ディーン!」
出て行こうとする兄を咄嗟に追い、腕を掴んだ。
「なんだ」
振り向く顔には怒りもないが他の感情もない。
サムはやっと気づく。昔、兄が毎日毎日イヤというほど垂れ流していた軽口が、再会した彼からは一言もない。
兄は変わったのだ。何か酷く、擦り切れ絶望し、疲れ果ててしまったように。
「・・・これからどうするの」
「狩りだ」
当たり前のことだ。
何を聞きたいのか自分でも分からず、サムはいらいらと唇を咬む。
と、ディーンの手がサムの腕をポンポンと叩いた。
「あまり訊くなサミー。『知る』は『巻き込まれる』の第一歩だぞ」
大嫌いな愛称で呼ばれることに、こんなに安堵するとは思わなかった。サムは咄嗟に吸ってしまった息をゆっくり吐き出し、兄に動揺を悟られまいとする。
「何かあったら、・・・電話しろよ」
その言葉に兄がひょい、と眉を上げる。少しだけ見慣れた表情だ。
だからわかる、かけてくることはないだろうと。ならば、と自然に口が動く。
「・・・時々電話するから、かけたらちゃんと出ろよ」
家族からの電話に2年以上もでず、音信不通を続けていたお前がどの面下げて言うのか。
そう言われても当然だったが、兄は簡潔に、
「ああ」
と答えただけだった。
そして、次の瞬間急いだ様子もなく、するりとドアを開けて今度こそ消える。
血と泥と闇と。
二度と関わりたくない世界。父と兄が生きている世界。
明日は大切な試験だ。早く寝た方がいい。
サムはそう思いつつ、今すぐ兄の携帯を呼び出したい衝動に駆られて、小さな端末を握り締めた。
とかとか
ありりりり?
なんかダラダラしました。そしてなんかまたもポイントを見失ったぞ!?
でも咬さまありがとーごぜーました!!つづぐど思わねがっただよオラ
[24回]