サムが変な呪にかかったときいて、思い切り心配していたディーンだったが、サムの様子を調べていたボビーから「ディーンと自分が恋人同士である」というのがその内容だと聞いたときは一瞬だけ笑いそうになった。
なんだそりゃ。
本人が一番嫌がりそうな思い込みをする呪なのだろうか。
「いや、まあこんな美男の兄ちゃんがいたら、サミー坊やがついフラフラするのも無理ないがな」
フフンと笑ってボビーに言ったら、
「いや、この呪にかかるとたとえロバの頭をした相手でもすっかり熱愛だと思い込む」
とあっさり返された。
なんだロバって。昔そんな話を聞いた気がするが。
しかしまあ、兄貴の男っぷりに目覚めたのだろうと、ロバと同列だろうと、サムの身に害の及ぶ呪であることは間違いない。
「どうすればいい?」
「普通なら思い込みが満足すれば解けるんだがな。まあ難しいだろうから解呪の方法を探してみる。それまで思い込みを否定しないで時間稼いでろ」
「へいへい」
頼もしい大先輩のサポートがありがたい。対策調べは任せてボビーの家からモーテルに帰ることにする。
「おい、帰るぞサミー」
「サミーって呼ぶな」
何となくいつも通りに呼びかけてしまい、一瞬はっとするが、これまたいつもと同じ返事が返って来た。
解説を受けてなければ、呪にかかってるなんて分からない。
まあだからこそ突然出てくる思い込みに周囲が戸惑い、反動で死者も出るのだろうが。
思い耽っていたディーンは、目の前にでかい手が出てきたのに反応が遅れた。
「・・・・なんだ?」
思わず尋ねると、むっとした様子でサムが返してくる。
「帰るんだろ」
うん、帰るけど。
それとこの手となんの関係が。
しばし考えていると、でかい身体の後ろから、ボビーが必死に目配せしてきているのが見えた。
「あー・・・」
「なに?」
まじかよ、と戸惑っていると、サムがまた眉間に皺を寄せる。
なんか、これで違ってたら間抜けじゃねえか?
そう思いながらディーンがソロソロと手を伸ばすと、がっしと掴まれた。そのままずんずんと出口に向かう。
「じゃあねボビー」
「ああ。大丈夫そうだがしばらくは大人しくしてろよ」
「分かってるよ」
言っていることはまともだが、その右手はディーンの左手としっかり繋いでいる。
うわあ、こりゃかなり寒いぞ。ディーンは心中で呟いたが甘かった。
ボビーの家の扉を閉めた後も、サムはディーンの手を引いて車に向かう。しかも何だか手を繋ぎなおして、なんだか指が絡まっている。
(うわあああああああなんだこりゃ)
思ったが言わない自分はプロだぜ。なんだか引きつる顔を感じながらディーンは思う。
弟に手を引かれて歩く姿を、見る奴が誰もいなくてよかった。
(小さい頃のこいつなら、手を繋ぎたがっても可愛いんだけどなあ)
そう、小さい頃のサムは、何かというとディーンの近くに居たがったし、ディーンと手を繋いだり、ディーンにおんぶをしてくれとよくねだった。
(ディーン、来て!)
(ディーン、行こうよ)
(ねえ、ディーン)
(こっちだよ。ねえ)
正直に言えば、弟が四六時中まとわりついてくるのが、うるさくて鬱陶しいと思ったことだってあった。
だけど自分は、自分の手にぎゅっとつかまってくるあの小さな指と手が、やっぱり可愛かったし嬉しかった。
何歳頃からだろう、サムがディーンと手を繋がなくなったのは。ディーンが手を差し出しても「やめろよ」と顔をしかめるようになったのは。
(そう思うと久しぶりだなあ)
歩きながら繋いだ手を見下ろす。
大きくなった手の平。長い指。
本人は呪で分からなくなっているにしても、久しぶりに手を繋ごう、とねだられたのだと思うとなんだかこそばゆい。
インパラにたどり着き、はたと助手席側で立ちつくしたサムは、2,3秒の沈思の後、手を繋いだままぐるりと車の回りを半周し、左手で運転席のドアを開けるとうやうやしくディーンを中に座らせた。
「閉めるよ」
と言ってドアを閉め、またぐるりと回って助手席に乗り込んでくる。
「・・・・・何か変じゃねえ?」
ディーンがサムの様子を見つつそろりと言ってみると、サムはまたムッツリ答えた。
「だってディーンはどうせ運転譲りたくないんだろ」
「そりゃ当たり前だ」
「だったらこうするしかないじゃないか」
いや、他にも色々やりようはあると思うぞ兄ちゃんは。
声には出さなかったのだが、どうも顔に出てしまったらしい。
サムはますます悔しそうな顔をする。
「そうやって、すぐ馬鹿にしたような顔するんだから」
「してねえよ」
そんな余裕があるか。この緊急時に。
「年下だと思って」
「それは実際年下だろうが」
これは言っても支障ないはずだ。うん。
「でも、付き合ってるんだからな」
おお、ストレートにきたな。
「ああそうだな」
ここはちゃんと肯定してやる。
「だから4つくらいの差はもう関係ないんだからな」
「そーゆーことわざわざ言うところがガキなんだよ」
何だかおかしくなってきた。美男と思ってるんだかロバと思ってるんだがしらないが、とにかく今のサムの設定は「年上の恋人にどう振舞ったらいいか分からない状態」らしかった。
まあ、その設定ならボビーが解決方法を見つけ出すまでの数日間、否定せずにあしらえそうな気がする。
なんだか弟がティーンの頃は、年上の女の子を相手にこんな風にモタモタしていたのかもしれないと思うと、自然と口がにやけてきた。
「ま、とにかくモーテルに戻ってしばらく休むぞ」
ニヤニヤしながらエンジンをかけると、むっとしたままサムが不意に顔を近づけてくる。
軽く唇に触れる感覚。
「おい?」
「年上ぶるの止めてよ、ディーン」
すねたような上目遣いで言う顔が、可愛いなあと思ってしまうのはきっとディーンが長年患っている「兄馬鹿」という名の病だ。
昔を思い出してはついホワワンとしてしまう自分を、いかんいかんとたしなめながらディーンはアクセルを踏み込んだ。
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・・・わーん。出だしを間違えてネタと言うよりだらだら文に。
まあこの後、サミーに色々ちょっかい出されるんだけど、ついつい昔を思い出しては「可愛いなあ」と思って深みにはまる兄貴なんだなきっと。
ホンマに一発なので後できっと修正します。最初書きたかった萌えつぼをまた忘れたよ・・・
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