発散の出奔であるからして、兄貴は出奔先のバーでもクラブでもハンターの集まりでも、いい思いをしないといけません。
すごーく好みの明るい楽しい娘がいるのでもいいし、
ディーンが夢で見るような知的かつゴージャスかつ男女の道にも熟練したような美女でもいいし。
そしてハンター的にも、最初若いからってちょっと舐めてかかりそうなベテランハンターがいて、そのオヤジに一目おかれるようなエピソードがあったり、ディーンを慕うような若手が出てきてもいいな!
ついでにちょっとほのぼの系心をくすぐりそうな、人のいいおばあさんとかの好意に触れちゃうとか。
あと、ふとした行きがかりであまり人に懐かない動物にえらく懐かれるなんてのも・・(そのへんにしておけ)
もちろんカードもビリヤードも好調で懐も暖かい。カード詐欺しなくても済むくらい。
しかも「宿を探してる」といったら
美女が「私のフラットに来る?」と誘ったり、
ベテランハンターが「うちは古いがお前が寝る場所くらいはある」と言ってくれたり、
若手のハンターが「よかったらあのビルに空き部屋があるよ」と教えてくれたり、
実はお金持ちのおばあさんが「年寄り一人は心細いものよ。部屋はいくらでもあるから使って」と太っ腹なことを言ったりして、よりどりみどり状態。
人に懐かない獣(いつの間に野生動物に)が「巣穴に入っていい」とクンクン鼻を鳴らして許可をくれるかもしれませんが、まあその方面に行っちゃうとまたちょっと別のワールドが開けそうなので省略。
そしてそれがぜーんぶ罠じゃなくて現実に起こる、というのが大事なポイントです!!(当たり前だ。罠だったら単なる本編だよ)
なので、遊び心も男心も里心も食い気も色気も満たされている兄貴の出奔生活なのですが、ある日わいわいやっていて、入り口に気配を感じて振り返ると、やたらとでかい男が立ってるわけですね!
兄貴目をパチクリ
「サミー?」
周囲がざわざわ。そーだよね。普通成人男子に向かってサミー呼ばわりはしないよね。兄弟でも。
「そうだよ。ちっとも帰ってこないからこっちが来た。文句ある?」
むすっと答える弟ですが、兄貴の鍛え上げられた目は、ちゃんとサムのちょっと心配そうな一瞬の表情もとらえているわけです。思わず顔にやける兄貴。
「あるわけないだろ。座れよ」
とか言って、隣のスツールか何かを指す。(反対側の隣には美女だな)
サムはちょっと居心地悪そうに座って、兄貴が
「なんか飲むか」
と言うのと同時に
「ビール」
とさっさと頼むと。
で、
「お前、宿は」
「引き払ったよ。一人でツイン使ってても割高だし」
「よくここが分かったな」
「町までわかれば、あとは簡単だよ。やたらと知り合い増やしてどうしたのさ」
「いや、別に。この町には狩で来たわけじゃないしな」
「ふーん」
なんて言いつつしばらく飲む。そしておもむろに
「ほらこれ」
と言って、サムがどさりと袋を渡す。
「あ?」
と視線を落とすとチョコバーの大袋。
「・・・・・・」
しばし考え込んだ挙句に、兄貴は出奔の発端がチョコバーだったことを思い出して思わず声に出して笑っちゃうと。
「なんだよ」
とムスくれる弟に、
「いーや」
って笑って、チョコバーの袋を開けて、「お前も食う?」とか聞く兄貴。普段は食べない弟だけど、この時は妙に神妙な顔をしてお菓子を掴み、いい大人の兄弟がバーで並んでチョコバーを食べる光景になると。
もちろん周囲は「あれが弟か」「あれがリトルサミーか」とざわざわし、
その日のうちに兄貴は美女とおばあちゃんと獣とベテランと新人の涙を振り切って別れを告げ、弟と再びインパラに乗り込むわけですね。
夕陽の中を走り去るインパラ。「ディーン!カンバーック!!」と叫ぶ少年の声。
これならめでたしめでたしだ。
・・・・でも書けば書くほど「罠」っぽくなるのは何故だろう・・・
[22回]