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それ、誘ってる?/帰り道、君と肩を並べて/試してみる?
俺が壊れそう/薄暗い部屋で二人きり/お前は俺のたったひとりの愛する人だから
拍手ぱちぱち&コメントありがとうございます~
それから今見たらカウンターが20000越えてる!もしもキリ番ゲットの方、よろしければリクなどありましたら一声くださいませね~ おおお、廃墟にならずに20000に来たよ・・・(感動)
魂をなくしてしまったディーンだが、それでも紛れも無く本人なので、兄弟の生活は大して変わりはしなかった。
ただし、ディーンが狩りに積極的ではなくなったため、今では狩りの話を持ち込むのはもっぱらサムだ。
ボビーから情報や依頼が入ったときも、ディーンは別段嫌な顔もせず狩りに向かうが、「悪霊をぶっとばそうぜ」的なマッチョ発言は聞かなくなった。サムは密かに「魂が欠ける」と言っても、欠け方には個々の差があるのではないかと思っている。
「兄貴は感じが変わったな」
久しぶりに会ったハンターがサムに向かって囁いた。兄弟は今、ボビー経由で他のハンターグループの狩りの助っ人に来ている。
「そうかな?」
動揺を押し隠して答えると、
「愛想がなくなった」
ちらりとディーンの方を見やりながら言う。
気づくのはそんなものか。
サムはとっさに喚きそうになるのを抑えた。
「死に損ないだからね」
口を歪めて答える。
少し離れた所では、FBIに成り済ましたディーンが、電話をかけている。
合間に挟まれる軽口や悪態はかわらないけど、その下にあった感情が見えなくなると、その声は実に薄っぺらく空々しく響く。
苦々しい思いでその姿を見ていたサムは、先ほどのハンターがじっと自分と兄に視点をあてているのに気づいて立ち上がった。
・ ・ ・ ・
調査の手分けをすることになり、二人は例によって調査員に成りすます。
と、インパラに乗り込もうとしたその時、先程のハンターが後から声をかけた。
「おいおい、さすがにその車で『FBI』は妙だろうよ」
サムは瞬間ギクリとする。実のところディーンは今、かつてのような愛着をインパラに持っていない。
さすがに廃棄しようとはしないが、サムがちょっと燃費や設備のことでブツブツ言ったら、
「じゃあ、新調するか」
と言い出して焦ることになったのだ。
ディーンの変化を大して気にしていない風のハンターだったが、やはり見るところは見ているということか。ハンターは皆、異形の『臭い』に敏感だ。仮に彼が魂のないディーンを人間でないと見なしたら厄介なことになる。
が、サムの心配は杞憂に終わった。
じろりと振り返ったディーンが、
「俺の車にケチをつけるな。」
と低く返し、ハンターは肩をすくめて引っ込んだからだ。
「ほっとしたよ」
車内で二人きりになってからサムは呟いた。この事態をやり過ごしたことにも、ディーンがインパラに関心を示したことにも。
「奴は俺のことを怪しんでいたからな」
ディーンはあっさり答える。
「さっきお前に探りを入れてただろう」
「気づいてたの」
「聞こえた」
ハンターは皆耳がいいが、電話をしながらあのヒソヒソ声を聞き取っていたとは驚きだ。
「俺が車にこだわらないと、ずいぶんお前も驚いていたからな」
「なるほど」
サムが一瞬期待したものとは違ったが、とっさの判断でインパラへの関心を表したわけだ。さすがに『ベイビー』とまでは言えなかったようだが、逆にそれをいったら空々しく響いただろうとも思う。兄の判断は的確だ。だがしかし。
「・・・実際のところは、車はインパラでなくてもいいの?」
一度聞いて知っているのにまた聞くところが自分の未練がましいところだ、とサムは思う。
「いや、この車でないと困る」
なのでハンドルを握る兄が前を向いたままそう言ったのにはびっくりした。
「そうなの!?なんで!??」
「最近の車にはカセットデッキが無い」
「・・・・・そう」
カセットデッキが無い → オールドロックが聴けない
という理屈らしい。そうですか。天使が拾ってきた欠片のおかげですか。
ここで拗ねるのは筋が違う。それは分かりつつも拗ねずにいられない自分を自覚しつつ、サムはまたも懲りずに口を開く。
「・・・ダッドからもらったってことはもう関係ないの?」
するとディーンはちらりとサムを見やり、また前方へと視線を戻す。
「それはあるだろ。形見なんだし」
その口調はだが、愛着やら誇りやら思慕やらがまぜこぜになったかつてのディーンのものとはもちろん異なり、余計にサムはやり切れない気分になる。
「お前はわざわざ自分が泣くような質問を選んで俺にしてくるな」
低い声がしてサムはいつの間にか俯いていた顔を兄に向けた。端正な横顔はサムを見ていない。
「やめろ」
怒りも苛立ちも悲しみも、もちろんからかいもない無い声だ。サムが泣くとディーンはそれを止めようとする。
その言葉が逆に最後の糸を切り、サムはまた涙腺が緩みだしたのを自覚した。
なんだか最近自分はやたらと涙もろくなっているな、と思う。
一瞬サムを振り向いたディーンが、路肩にインパラを停める。そしてゴソゴソとポケットを探り、サムにハンカチを押し付けてきた。
「拭け。調査にかかれないぞ」
そうでした。
正直他のハンターの助っ人仕事のことなんか、頭からきれいさっぱり消えていた。確かに目を真っ赤にしたFBI捜査官なんて、聞き込みどころかこっちが事情を訊かれそうだ。
サムは顔を拭こうとし、渡されたハンカチが昔と同じく丸められて皺くちゃなものであることに気づいて、少しだけ笑った。