「お願いだ」
「できない」
「お願いだよ」
「すまん。私にはできない」
please please please
I can’t I can’t I can’t sorry
変わりばえのしないモーテルの中。弟と天使の決まり文句は延々と続く。
天使は突っ立ち、弟は天使の前に仁王立ち、魂の欠けた兄はテーブルで新聞を読んでいる。
テレビをあまりつけなくなったので、部屋の中には2人の声以外の音は無い。
「私の力ではそれはできない」
何度目かの同じ言葉を口にしたあと、カスティエルは2人に視線も向けずにコーヒーカップを取り上げるディーンをちょっと見つめた。
「試してくれるだけでいいんだ」
頼むよ。
サムももう何十回言ったんだというセリフを繰り返す。
後にいる兄は見ない。サムがこうしていても、こっちを見ていないことが分かるからだ。
天使は兄弟を害さない。兄の「守護」アラームは発動しない。
コーヒーを啜るディーンをしばらく見つめた後、天使は突然
「やってみる」
と呟いて姿を消した。
サムは兄を振り返る。
新聞に落とされた視線。伏せた瞼。
しかめ面やにやけ顔、端正な顔を台無しにするどれもしなくなった兄の顔は、いつも人形のように整っている。
・ ・ ・
「一部だ。全部は掴めなかった」
なんだかボロボロになった天使が、コートのポケットからなにやら光るものを取り出した。
「ディーン」
こっちに来てよ。と、サムがディーンを呼ぶ。
「魂か」
呟いてディーンは天使の前に立った。
天使がゆっくりと光る何かをディーンの身体に沈めていくと、苦痛の声を上げてディーンは倒れる。
「どうなるの?」
サムがディーンを寝台に運び、オロオロと尋ねると、天使はボサボサ頭のまま
「わからない」
と呟いた。
数分後、見つめる二人の前でゆっくりとディーンが目を開けた。
「ディーン」
「大丈夫か」
同時に話しかける2人に、淡々と
「大丈夫だ」
と答えると立ち上がる。
ああ、とサムは肩を落とした。どうやら感情の起伏は戻っていない。
無言で部屋を横切ったディーンは、おもむろにラジオをつけ、局を選んだ。
部屋にとどろくオールドロック。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
弟と天使は無言で佇む。
「・・・この部分は正直いらない」
「では、取り出して私が持っていようか」
「・・・・・・・・・・・いや、いいよ。入れておいて」
そんなわけで天使の決死の行動の結果、ディーンはロック好きの部分だけ戻ってきたのだった。
いや、意味はあんまり無いです。
浮かんだだけです。はい。