ゾンビへの3つの恋のお題:どうしても分かりあえない/手遅れになる前に/もっと愛して、奥まで愛して
ゾンビSDへの3つの恋のお題:いっそ拘束して/キスしたい、キスしたい、キスしたい/来ないならこっちから
ゾンビS×Dへの3つの恋のお題:だけど、バイバイ。/この鍵は渡しておくから/愛し方なんて分からない
ゾンビな兄弟への3つの恋のお題:はっかの味を舌でころがして/そんなに焦らさないで/君が笑うと俺も嬉しいから
ゾンビなSDへの3つの恋のお題:寝ぼけてキスをした/百年の恋って言うけれど/帰り道、君と肩を並べて
ゾンビDとSへの3つの恋のお題:俺だけを見て/ただ傍に居てくれたらそれだけで良かった/お前がいない
・・・・・・ゾンビを念頭において、心に響いたフレーズが太字なんですが、ほのぼのできるかこの時点で微妙です。
そして、延々と響くフレーズを求めて入力し続ける自分が痛い。
そして本日諸々の合間を縫って書いてみましたが。
・・・・あれー?・・・・ま、いいや。ゾンゾンゾンビーーーー!!
ヴァンパイアの心臓、狼男の肺。グールの皮膚。
ゾンビになっても、ディーンは風呂が好きだった。というか風呂はいまや残された貴重な楽しみだった。
なにせゾンビであるが故に、食べ物が要らなくなってしまった。酒もチーズバーガーも、咀嚼して喉に通すことは出来るが、酔いもしなければ吸収もしない。
味はしても血肉にならないと、食べるという行為は意外に空しいものなのだとディーンは知った。
だが、この身体でも風呂で温まることは感じるし、叩きつけるようなシャワーは心地いい。
サムとディーンが暮らす小さな家には、もちろん一通りの家具や設備があって、ディーンは毎日長っ風呂だ。
だが。
いつものように服を脱ぎ、鏡に身体を映したディーンは顔をしかめた。
身体に見覚えの無い縫い目がついている。
(またやりやがった)
気がつかないうちに、サムはまたディーンの『手入れ』をしたらしい。
サムはディーンの弟として産まれたが、今はディーンの創造主でもある。ディーンにはわからない何らかの手段でサムはディーンを時々眠らせ、『管理』できてしまう。ベントンの記録をディーンも読んだがさっぱりわからなかった。
別に不自由はしていなかった。身体が少しばかり重くなったな、と思ったくらいだったのだ。
ハンターとして闘っていた頃ならともかく、庭の手入れやら日曜大工やら車の整備やらしかすることがない今、少しばかり動きが鈍くなったところで、どうと言うことはなかった。
「何怒ってんのさディーン」
風呂から上がると、ノートパソコンを覗き込んでいたサムが、ちょっと顔をしかめてこちらを見る。
相変わらずの小姑風物言いだが、最近ではサムがあえてそんな風にふるまって見せているのを知っている。
懐かしい、プンプンと怒りっぽい弟。
「何じゃねえよ、俺が知らないうちに身体いじるんじゃねえっつっただろーが」
顔をしかめて強めな口調で言い放つ。ディーンもまた、あえて昔のようにふるまう自分を自覚していた。
「何か、違和感がある?」
ちょっとサムの顔が真面目なものになった。
「下手くそな縫い目ぎざぎざつけやがって」
「それだけ?」
「『だけ』じゃねえ!こっちはもう、ついた縫い目消えねえんだぞ」
「縫い目だけ?ディーン」
サムが立ち上がって近づいてくる。
もとより身体は生傷だらけだったが、時間が経つと癒えていく傷と違って、ディーンの身体の縫い目は、縫い手の腕のままに残る。まるでパッチワークだ。
フランケンシュタインがぐれた気持ちがよくわかるぜ。ディーンはブツブツ呟いた。今、あの映画を観たら、感情移入しすぎて号泣しそうだ。涙が出るのか知らないが、目が乾いて困ることもないから一応出る機能はあるのだろう。
---もう臓器を替えるのはいやだ
しばらく前にディーンがそう言って「手入れ」を拒んだ後、サムは狩りで倒したモンスターのパーツをディーンのメンテナンスに使うようになった。
サムがそれを提案した時、ディーンは少し驚いたが嫌がる様子もなく頷いた。
『ヒト』のものを使うよりは遥かに抵抗がなかったし、もし魔物の臓器の影響で自分が変われば、今度こそこの身体に始末をつければいい。
だが、そんなディーンの思いつめた思考は空振りした。グールを使おうが狼男を使おうが何の影響もでないままだ。
「縫い目以外に変な感じとかはないの?」
「俺がさっきから言ってンのは、勝手に俺の身体をいじるなってことなんだよ」
「そっか。よかったよ。切り取ってしまえばただのパーツだから、大丈夫だろうとは思っていたけど」
サムがニコニコ笑う。
聞いちゃいない。ディーンはため息をついた。
殺したモンスターの身体をつなぎ合わせて生きているというのは、おぞましい上にもおぞましい事態なのだが、そんなことまでして生き延びているディーンの最近の過ごし方は、車の整備と家庭菜園だ。花を植えたこともあるが何だかつまらなくて、最近はもっぱら野菜だ。
トマトやズッキーニが収穫できたらサムに食わせようと、小さく実をつけた野菜にコップで水をやる。最初は小さな芽だったのに、いつの間こんなにも育ち、実をつける。生きているものはどんどん変わる。
生きているサムには生きているものが似合う。
「なんかのんびりしてるわよね」
遊びに来たジョーが呟いた。
「帽子かぶれよ。日焼けすんぞ」
物置にはジョーのための麦藁帽子が置いてある。
ほとんど外と関わらない生活をしている二人の様子を見に、ジョーは時々やってくる。
小さな菜園の手入れを終わらせてしまい、することがなくなったディーンが足元をうろついていたアリの巣探索を始めると、ジョーも付き合って座り込んだ。
「ディーンはいいの?」
「男は焼けてもいいんだよ」
アリの列を目で追いながら呟く。直射日光が当たったほうが暖かいし、実際のところもうディーンの皮膚は紫外線を浴びてもメラニン色素を作ることはない。完全無欠の日焼け止めだ。
少し前、サムが初めてヴァンパイアのパーツをディーンに使った後、押しかけてきたジョーは目覚めたディーンの前で腕を切って血を流して見せた。
3人でしばらくポタポタと滴り落ちる雫を見つめた後、ディーンが黙って救急箱を持ってきて手当てをし、その後3人でコーヒーを飲みながらテレビを観た。
誰も何も言わなかったが、もしもディーンが変異したら、ジョーはディーンの首を切るための鉈を取り出しただろうし、サムはジョーを殺して止めただろう。
自分が狩られるのはいいが、ジョーを死なさなくてよかった、とディーンは胸を撫で下ろす。
アリの巣に出入りするハタラキアリの観察を日が傾くまで続けた後、ディーンとジョーは立ち上がった。
「昆虫記が書けそうよね」
「サムだったらな」
言い合ってちょっと笑う。
「足がしびれちゃった」
「悪いな」
顔をしかめるジョーに思わず謝る。そういった感覚も遠くなって久しい。
「感覚は全然ないの?」
ストレートに訊かれてディーンは笑う。
「あるさ。温度もわかるし触感もある」
触感は残された貴重な感覚だ。実はディーンは昼間でも堂々と抱きつける犬を飼ってみたかったのだが、犬は異形の匂いに敏感なものがほとんどで酷く吼えられるので諦めた。
犬達は正しい。俺は居てはいけない存在だ。
ふと、ジョーがディーンの手を取って自分の頬に手のひらをあてる。
「わかる?」
「わかるさ」
ディーンは笑った。
柔らかい頬の感触。手のひらをくすぐる産毛。血液の通う温かさ。甲に流れる髪の毛。そして冷たい手を引き寄せる細い指。優しくて心地いい。
ジョーの瞳が何か思うように動くのが分かった。だからディーンは先にそれを遮る。
「おっとしまった。エレンに殺される」
ニヤリと笑って優しい感触から手を引いた。
「ジョー。そろそろ日が暮れる。送るよ」
サムが家から出て来る。
「じゃあな。死体と遊んでないで生きてる男捕まえろよ」
ニヤニヤ笑って手を振ると、ジョーがしかめ面をする。
可愛い妹。早くいい男を捕まえろ。
二人が出て行き、急に静かになった家の中でディーンは手を擦り合わせる。
あれはどのくらい前だっただろう。
残された楽しみの一つとして、インパラで町をなんとなく流していた時、買い物に出かけると言っていたサムが、若い女性と連れ立っている姿を見つけた。
運転席でディーンは思わず微笑んだ。
狩りを止めてしまった今、サムが自分自身の時間を持っていたことにひどくほっとした。冷やかす気にもなれなくて、見つからないうちにインパラを方向転換しようとした時、サムの連れの目が自分と良く似たヘイゼルグリーンであることに気がついた。その瞬間、冷たい身体がさらに冷たくなるような気がして反射的にセルフォンを掴んでしまった。
「サム!」
『ディーン?どうした』
驚いたようなサムの声に、咄嗟に迷う。
「お兄様を差し置いて、美人とデートとはいい度胸じゃないか」
視界の中でサムが辺りを見回し、黒い車体を見つけたのだろう、にっこり笑うと女性に何か告げ、別れてこちらに向かってきた。
サムは近づくと、何も聞かずに助手席に乗り込んできて笑う。
「へへ」
「・・・なんだよ」
「ディーン、焼きもちやいた?」
「・・・アホ」
結局ディーンは疑いを口にしなかった。
サムも何も言わなかった。
ただ、それ以降サムが女性と連れ立っているのを見ることはない。
しん、と冷えた室内。
鼓動の少なくなった身体はどんどん冷えて行く。ディーンは真冬のように室内で足踏みをした。
食べることも、飲むことも、優しい一夜の相手を探すことも、どれも欲しくなくなった自分は本当にすることがないな、と一人で笑う。
多分、ベントンがあんなにも生きることに執着し続けられたのは、彼が医者だったからだろう。本能的な欲望と関係なく得られる、知的好奇心やら研究心やらで楽しく過ごせたに違いない。
「ディーン」
車の音がして、サムが帰ってくる。
「ただいま」
言いながら冷えたディーンの身体を抱きこんだ。体温を分ける、という大義名分がもう使える時間だ。
弟の匂い。弟の体温。弟の感触。
ディーンに残された感覚が満たされて行く。ごつい身体にすがるように腕を回す。
口だけが昔をなぞるように動いた。
「・・・勝手に俺のレディを使うんじゃねえよ」
サムは優しく笑って、
「ごめん」
と謝る。その口調はもう昔と同じではなかったが、二人とも何も言わなかった。
敗北感に満ちて終わる
あれーーーーーーーーーー?
家庭菜園なのに!アリの観察もしてるのに!
ヒトの臓器なしにしたのに!
やっぱしあんまりほのぼのしないよーーーーーーーーー
・・・おそるべしゾンビ!くくくくく