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死にそうに幸せ/雨の中にただ佇んで/傷つけてもいいから
「クレイ!?」
「トム、走って!」
バラバラと追ってくる足音を路地に入ってやり過ごし、雨の中を走る。
「すまん、お前はいいのに・・」
「黙って」
そんな場合じゃないだろうに、クレイを振り返ってすまなそうな顔をするトムをせかして道を横切り、人ごみにまぎれる。
「車、どこに置いた?」
「銀行の裏だ」
数年前の事件について、トムに直接捕縛の手が迫ったことは無い。
それでも例えちょっとした喧嘩であっても、警察に関わることは危険だった。
それなのに。ああそれなのに。それなのに。
クレイは困り果てるような、大声で笑いたいような気分で走る。
パッと見、大人しくて争いを避けそうなトムは意外にも無謀で喧嘩っ早かった。
久々に出かけた短い旅行。
トムはついさっき酒場で地元のごろつきに絡まれ、あっと言う間もなく勢い良く相手を張り飛ばした。
旅の中ではそれこそ良くあった光景だ。
だがしかし、ハリーの亡霊と縁を切ったトムは、あの人間離れした殺気を纏うことはない。
なので、張り飛ばされたゴロツキ達も怯むことなく元気に殴りかかって来た。受けて立てば乱闘必須。
もちろんやって勝てない相手ではないが、クレイも今は堅気の勤め人。酒場での面子の為に職を危うくする気はなかった。
「乗れ」
「うん」
年季の入ったトムの四駆にたどり着き、素早くトムが車を発進させる。
「・・・・俺はどうも絡まれやすいな」
運転しながらトムがしょんぼりと呟く。
「あれは相手が悪い」
クレイは即座に言い切った。大人しくしていたら付け上がるタイプだ。クレイがちょっと飲み物を買いに行っている間に素早くトムに絡んだのだから、穏やかに相手をしても、きっとろくなことはなかった。
「悪いな。たまの旅行なのに」
トムがまたすまなそうに言う。いいのに。とクレイは思う。半分以上は部屋に籠もっていることが多いトムのための旅行だ。そしてクレイの部屋の中で物静かに、それこそ植物のように生活しているトムは、旅を始めて以来ちょっと活発だ。
暗い車内の灯りでも、その頬が赤みを増したままなのがわかる。トムがあまり顔に出さないまま、それでも旅に高揚している気配がひどく嬉しい。
しかしながら、二人が馴染み切っていた類の酒場は、どうやらバカンス向きではないということが分かった。
「それならトム、もうホテルに帰ろうよ」
クレイが少し笑いながら言うと、トムが前を向いたまま顔をしかめる。
「うう・・・」
正直なその顔にクレイは噴出した。
「笑うな!」
しかめた顔が赤い。
初めてのバカンス旅行で、クレイが予約した部屋がダブルだったことを知ったトムは真っ赤になり、ホテルの施設を使うのを嫌がった。
「だって、隠す気ないから」
「でもなあ・・・」
「それに、どうせ一緒に寝るんだからツインのベッドじゃ狭いよ」
「そりゃ、まあ・・・な」
真っ赤になり眉をしかめながらも、否定しないでくれるのがまた嬉しくてクレイは笑う。
「どうせツインだって勘ぐられるんだしさ。ホテルのバー使うのが嫌だったら、何か飲むもの買って帰ろうよ」
「・・・まあ、それならいいか」
ホテルのバーにはトムの好きそうな銘柄も色々あったのだが、それはまた追々でいいだろう。
隠さない。でも逃げ続ける。
ピリピリとした、それでも自由なあの日々をほんの少し味わい、それでもまた、ひっそりと過ごす部屋に帰る。
「トムは、旅してた頃に戻りたい?」
ほんの少し怖がりながら訊いた。
が。
「いや。風呂は広い方がいいから」
と、また独特な返事が返ってくる。そんなにバスルームが重要だったのかトム。あまり注文つけたことがないから知らなかったよ。
「あの部屋のバスルーム、かなり大きいよ・・・カップル向きだから」
極秘情報を教えると、複雑そうな返事が返ってきて、クレイはまた幸せで笑った。
おわり
・・・あら?やっぱり全然お題を生かしていないただのバカップルねたになった。
まあ、平和に暮してるもーほーカプだからね。