呪いにかかったディーンは、自分の方を弟だと思い込んでいる。
驚いたことに、呪いにかかって以来ディーンは口数が減った。しゃべりだせば前と変わらず軽薄でいいかげんでふてぶてしいディーンのままだが、ごく自然に黙って過ごす時間が多いことにサムは戸惑っていた。
「ディーン」
「ya」
話しかけると、簡潔な返事が返ってくる。視線を向ければ、銃器の手入れをする手を止め、続きを促すように視線を向けている姿がある。
明らかに、ディーンのあのアホっぽい軽口の多さは、「兄」であるが故のものだったのだ…!
朝からラジオに合わせて歌って踊る奇行も、「兄」であるが故のものだったのだ……!!!
ショックを受けるサミー。
そして何かあると「だってお前は出て行ったじゃないか」だの、「お前がいない間の話だ」だの「その時は俺とオヤジしかいなかったんだ」だのと、大学に入るために家を出たときの事をやたらと言う。何でだ?と思い観察すると、その時のディーンは、責めているとか怒っているとかいうよりも、すねているように見える。
……甘えている!?
閃いたサミーは、よくわからない衝動が突き上げてきて、しばらくその場でしゃがみこみ。
うわー
うわー
ディーンが甘えて絡んでくる。
「サム、このままじゃ金がもたない。どうする?」
ディーンが呪いにかかって3日目、突然相談される。
衝撃。こんな相談されたのは、知り合って20数年、はっきりきっぱり初めてのサミー。
目を丸くして固まるサムに、
「ここにはもうしばらく滞在するから、偽造カードを使ってばれるとまずい。」
「…じ、じゃあ働く?」
「それじゃ調査が間に合わないし、ざっと見た感じ日雇い仕事はなさそうだ」
「日雇い?」
「あれば一番安全なんだけどな。」
「…他にどんな手が?」
「カード、ビリヤード、あと女」
「女はだめだ」
「じゃあ、残りの手だな。俺は酒場をざっと見てくる。兄貴は調査を頼む」
「あまり危ないことするなよ」
「しなけりゃあっという間に日干しだぜ」
にやりと笑ってディーンは出て行く。
なんてこった。しばらくの間、PCを開くことも出来ずにサムは頭をかきむしった。
「うわ!どうしたんだサム、この金」
「株。ネットで。信用取引しちゃったんで危なかったけどまあ何とか」
当分狩りに専念できそうなまとまった金額を稼いだサム。札を数えて口笛を吹くディーン。
「すげえな。でもダッドにばれたらどつかれそうだ」
「なんで?」
「言われてるからさ、サミーに金の苦労させるなって。兄貴を守れってな」
「ディーン!」
思わずガバッとディーンの肩をつかむ。
「それは子どもの頃の話だ。もう僕らは大人だ。そんな昔の言いつけに縛られなくていいんだ」
ディーンは別に嫌がる様子はなくゆっくりと手を上げて、自分もサムのシャツを軽く握る。そして少しの沈黙の後にポツリと言った。
「だけど、それじゃあ俺はなんのためにお前のそばにいるのか分からない」
「……ディーン!」
引き寄せて思い切り抱きしめる。
ディーンが大人しく抱かれている。
しかも背中に手を回してくる!
うわー
うわーーー
ボビーからの連絡
「呪いの解き方わかったぞ」
「あ、いや、まだいいからボビー」
「解かないと、何の拍子でディーンが矛盾に気づくかわからんぞ」
「うーん…、でもあとちょっとだけ」
「サム?誰と話してるんだ?」
「あ、ディーン!じゃあ、ボビーまた連絡するよ」
「おいサム!」
ガチャ
……というわけで、兄の呪いもまだ続いているらしい
あり?…………T様、捧げ物がなんかモエモエ発射地点と違う方向に行っちゃいましたーーー(慌)!!ごめんなさいいいいい。このお詫びに今度「ちゃんとヒゲ剃れよ」とディーンの頬を撫でる兄サムをささげ……!!(悪循環)
[10回]