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海外ドラマの超常現象の兄弟(SD)を中心に、頭の中にほわほわ浮かぶ楽しいことをつぶやく日記です。 二次創作、BL等に流れることも多々ありますので嫌いな方は閲覧をご遠慮くださいませ。
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明日はサミ誕(S6サムと兄)

S6サムと兄のサミ誕



はは、と小さな笑い声がして、ディーンは塩弾を作る手を止めないまま振り返った。
モーテルのテーブルで黙々と狩りの準備をしていた弟が、父の手帳を見ながら口角を上げている。
ディーンの振り返った気配に気づいたのだろう。顔を上げ、ひどく物言いたげな表情で視線を合わせてきた。

「・・・なんだ」
弟の皮をかぶった異形にも思えるこの存在と、行動を共にするようになってしばらく経つ。
ルシファーの檻から戻ってきた彼の『何も感じない』という申告は、いま一つ正確ではないことはほどなくわかっていた。
感情はある。怒りも恐れも。
だが、恐ろしく片寄っているのだ。そして時々、彼が正に弟であることを感じる瞬間があり、その半端な欠け方が余計にディーンをやりきれなくさせる。
例えば今、その顔に浮かんでいる笑いのように。

「父さんの手帳にさ、毎年僕と兄貴の誕生日が書き込まれてるだろ」
「・・・・ああ」
「兄貴、この手帳で最初にそれを見つけてすごく動揺してたよな。年によっては日付しか書いてなかったりするのに」
「・・・・」
今のサムの口から言われたい言葉ではなかった。母を失くした父の、口に出せない様々な思いが、魔物に関する情報とともに詰め込まれた手帳だ。
6年前、父が姿を消すまで絶対にディーンに触らせなかったこの手帳に、情報や事件の記録に混じって、毎年必ず自分とサムの誕生日と年齢が記されているのを見たときの胸が締め付けられるような感情は、未だにはっきりと覚えている。
父は自分たちのことを考えていた。
離れて狩をしているときも。
サムと酷く喧嘩をしたときも。
弟が家を離れてからも。

「でも、この年なんか書いてあるのは『1月24日、ディーン〇回目の誕生日』だけで、あとは狩りの記述だろ」
「・・・だからなんだ」
「これって記録じゃない?」
瞬間、何を言われたのか分からなかった。動き続けていた手が止まる。
「はあ?」
「ディーンは僕が昔の話をすると、それは記録だ、ってしかめ面して言うよな」
「・・・・」
「何が違うのかな」

「・・・お前はどうだったんだ?最初にその手帳を読んだ時」
動きたがらない口を無理やり開く。自分の感じていることなど何一つこのロボットのような弟に教えたくはなく、だが父の手帳を単なる文字の羅列と扱う言葉を聞き続けたくもない。
果たしてサムは脳内を検索するように視線を上げてしばし考え込み、ゆっくりと口を開いた。
「『父さんが僕の誕生日を覚えていたなんて、手帳に書いていたなんて信じられない』と考えてたな」
「どう感じた?」
波立つ心を抑えて言葉を続ける。
そのときのサムを思うと、またも胸の奥にキリをねじ込まれるような痛みを感じた。
「わからない。今は感じることはないって言ったろ」
だが素っ気ない声で現実に帰った。ここは狩りの準備をするモーテルだ。時刻はもうすぐ午前0時。


「身体の状態は覚えてるよ。頭と目の奥がカーッとして、心臓の脈拍が増えた。少し呼吸が乱れたんじゃなかったかな」
言ってから少し間を開け、ふん、と口をゆがめて笑った。
「まあ、動揺して、少し涙腺が緩みかけたような状態だよね」
「・・なにもおかしかねえだろう」
吐き捨てて再び塩弾作りに戻る。言っても言っても通じない弟より、圧力を加えれば固まってくれる塩の方がよっぽどましだ。
「お前もさっさと支度しろよ。明日は早い・・」
言いかけて今度は、この弟が眠らない存在であることを思い出してやめた。とっとと自分の分の準備をして眠るに限る。
だが、
「祖父は僕の誕生日を知らないから、去年は何もしなかったんだ」
唐突に言われて思わずまた振り向いてしまう。
視線の先には、やっぱり何を考えているのかわからないサムが、でも先ほどの笑いは消してこちらを見ている。

「今年は? あと3分で終わるけどさ」

ガラスのような目と、視線が絡んだ。

「・・・感じなくても祝っては欲しいのか」
「でもないけど、どうするのかと思ってさ。忘れてるのかとも思ったけど違うよね」

忘れるわけはなかった。目が覚めてからずっと考えていた。
今日は5月2日。
4歳違いの弟の生まれた日。

去年はもっと酷かった。
穴に落ちていく前の最後に見た顔。眉間にシワを寄せて理屈をこねる顔。突っ張りながら不安を隠せない緊張した顔。小さい時と変わらない、といつも思った笑い顔。差し出した手を握り返す細い指。
弟の記憶がぐるぐる回り、次々に溢れて止まらないそれに押し潰されそうで、いっそ潰されてしまいたかった。1片の意識も遺したくなくて、それこそ浴びるように酒を飲んだ。飲んで、眠って、吐いて、それを何回繰り返しただろう。

「あのさ」
唐突にまた追憶から引き戻される。至近距離にサムの顔があってぎょっとした。
「考え込んでるところ悪いんだけど、日付が変わる」

何かあるの?ないの?

欲しくもないと言いつつ、ストレートにねだる言葉にため息をつく。
「Happy Birthday、フリッジにあるビール飲んでいいぞ」
「thanks」

息がかかりそうな距離で告げると、淡々とした返事が返り、気がすんだようにサムはテーブルに戻る。

時計の数字があと数秒で今日が終わることを告げている。
「Happy Birthday」
「もう聞いたよ」
不審そうに眉をひそめる顔に口元だけで笑う。

魂のない身体を通じて、地の底のお前に届けばいいのに。
Happy Birthday,my little Sammy
もうすぐきっと助け出す。


end

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