(問いただしたい)
サムは心中で呻いた。
(ものすごく問いただしたい。今すぐ。)
空は快晴。街路樹は青々として目に鮮やかだ。
今、兄弟は狩りの合間で、比較的大きい街に滞在している。
「見ろよサム。ここの通りは古書街なんだってよ。大学が二つもあるせいか、昔から有名らしいぜ」
ディーンがどこからか街の観光パンフレットを持ってきて、宿の近くのカフェで広げて見せた。
「へえ・・・すごいね」
僕の顔は今絶対に引きつってると思う。
それでも引きつりつつ笑って見せずにいられないのはなぜた。
「なんか面白い古書でもあるんじゃねーかな。行って来たらどーだ?兄貴」
ディーンが期待に満ちた目をしてサムに言う。ものすごく分かりやすい笑顔付きで。
(企んでるだろ!何か、僕が絶対に頼んでないサプライズを企んでるだろ!!!!)
サムは心中で絶叫しつつ、でもそれを例年のようには口に出来ない。
「そうだね・・・」
考えるような素振りで、視線を落とす。
正直、父を探して兄との旅を再開して以来これは例年行事だ。はっきり言って全然サプライズじゃない。テレビの旅行番組で、港の取材をしていたレポーターが偶然漁師に出くわして、
「実は私は民宿もやってるんですが泊まりませんか」
「まあ!いいんですか~?」
というくらい、仕込みから落ちまで見えている。
今日はサムの誕生日だ。
兄はここ数年、毎回サムがきっぱりと要らない、と言っているのに恐ろしくニブチンな兄ゴコロとやらで毎回恐ろしく迷惑なサプライズプレゼントを贈ってくれている。
4月半ばを過ぎた頃からディーンは挙動不審になった。
狩りの対象を物凄く吟味して、4月の末には程々に働いた感を持ちつつ、兄弟は狩りと狩りの合間の休息期間に入っていた。休息期間に入って数日経つので、ほどほどに体力も回復している。
そして数日前から大変わざとらしく、モーテルの部屋に“ディーンの買ってきた”ヴァラエティ溢れるポルノ雑誌が散見されるようになった。そして大変わざとらしくちょっとした合間に、
「お、この娘いいなー。どう思う?」
とか
「迷うぜ。兄貴だったらこの子とこの子、どっちがいい?」
とか、みえみえのリサーチを仕掛けてくる。
ちなみに昨日から
「俺、ビリヤードでバカ勝ちした!!」
とディーンが叫ぶので(90%の確率で嘘だと思う)、二人は普段のモーテルではなく、街の中でも中の上くらいのレヴェルのホテルに宿を移している。
賭けてもいい。
これからサムが古書街に出かけるとする。1時間とかで帰ろうとしても、ディーンはきっと「あれを探してくれ」とか何とか言って、古書街に引き止める。
そしてディーンといつもよりはサム好みに近いダイナーで夕食を取り、誕生日だから乾杯の一つもする。帰ろうとする段になると、
「あ、俺ちょっと約束があるから明日帰る」
とか言って、ディーンはどこかに消える。そしてサムが部屋に一人で帰ると、ベッドにその年のディーンによる『サミーの好み』の美女が服を脱いで横たわっているのだ。挙句サムは毎年、レディー達の気持ちと気合とを認めつつお引取り頂くのに、その後の時間を少なからず使うことになる。年によっては狩りの真っ最中だったりして誕生日どころでないことももちろん有るが、今年は休息期間だからきっとフルコースで来る。
毎年、女性たちはディーンから「絶対に簡単に『うん』とは言わない見栄張り男だから、よろしく頼む」とか言われて気合を入れてくるので困る。年々困り度は増している。どうも兄は送り込んだレディーたちにその後の成り行きと自分の断るときの言い分をリサーチしているらしい。
今年のディーンのチョイスした雑誌は、なんとなくマニアックなものが増えていた。
ただでさえ疲れるのに、マニアックな嗜好のプロフェッショナルに気合を入れて迫られるのは想像するだけで疲れる。
この際、断るのも手だ。
サムは思いながら視線をテーブルの下にふと落とした。
と、見慣れた兄の足が、楽しげに揺れている。もちろん子供が足をブラブラさせるのとは違うが、明らかに貧乏ゆすりとも違う。見た瞬間に『楽しくて嬉しくてしょーがない、わくわく』と伝わってくるようなバレバレな揺れっぷりだ。
(うわああああああああ)
心中で呻いて視線をテーブルの上に戻す。
これが兄なら。
弟を思うおせっかいな兄の心遣いなら。
「迷惑なんだよ!」
と率直に言ってやれるのに。
だめだ。これはだめだ。僕には言えない。
この、30過ぎてるくせに昼間のカフェのテーブルでワクワクと足をブラブラさせて、毎年失敗してるくせに懲りもせず迷惑な誕生祝を仕込もうとしているディーンに、「迷惑だからやめろ」と言う事はできない。
兄って損だ。
サムは思いつつ、
「じゃあ、この後僕はちょっと古書街に行って来るよ・・・」
と無理矢理に穏やかな声を絞り出したのだった。
ちゃんちゃん
えーと、よっぱらいですので、色々穴があったら「アルコールのせいだね」とスルーしていただけると幸いです。
感想。
一発書きは楽だ!!
反省。
またもお祝いっぽくないよね。ごめんねサミー!!!
翌朝見直して思う。W家の生活でこれを毎年やってたら凄いぞ。(だめ、そこは触れちゃ)
[22回]