「ジョン、食事だ。早く座りなさい」
穏やかにたしなめるような声に促され、ジョン・ウィンチェスターは微妙な顔をして食卓に近付いた。
家長である彼の席には、次男であるサム・ウィンチェスターが重々しい顔をして座っている。
家族ぐるみで取り組んでいた狩の最中、成り行きで呪いのアイテムを一家が引き受けることになり、運と防御が一番低かったのかサムが今、発症しているのだった。
肉の焼け具合を見ているメアリーは、恐らくどこでも空いた席に着くつもりだろう。ディーンは涼しい顔でさっさと自分の席に着いてしまっている。ジョンはため息をこらえて次男の席に座った。
『自分を何だと思い込んでいるのか』
この呪いのポイントはそこにつきる。それさえわかってしまえば、あとの対処はしやすい。
それも今の言動でわかった。サムは自分をこの家の父親だと思い込んでいる。
「どうぞ、サム」
同じく察したらしいメアリーがにこやかにメイン料理の皿をサムの前に置く。
「ありがとうメアリー」
サムは家長らしく重々しく頷き、しかしいささか覚束ない手つきで肉を切り、家族の皿に取り分け始めた。メアリーが足早にキッチンへ駆け込んでいく。
ジョンの席から流しにかがみこんで震える背中が見えた。・・・見事に声を立てずに笑っているらしい。一方ディーンに目をやると、弟を見ながらまるで掴まり立ちをする幼児を見るような顔になっている。
動揺しているのを隠すときの顔で料理を分け終わったサムは、
「メアリー?座りなさい」
と声を上げる。ここでメアリーも子供役であることが決定した。そして次に、
「ディーン、カスティエルはどうしたんだ?」
と振り向いたのでジョンは驚く。兄に妻役を割りふる次男のチョイスはこの際スルーするとして(母であるメアリーを妻呼ばわりする方がジョンとしては引っかかる)、あの居候天使をそこまで家族扱いしているとは意外だ。
「あいつはほっとけばいいんじゃねえか?」
めんどくさそうにディーンが答える。すでにフォークを手にして食べる気満々の長男の頭からは、次男への「家長扱い」はすっぽ抜けているようだった。
「放っておくと、あとで勝手に冷蔵庫の中を漁るからだめだ。この家にいるからにはきちんと決められたものを食べてもらう」
サムが眉間にタテジワを寄せながら言い切り、ジョンは納得した。なるほど。家族扱いというより管理したい願望か。先日サムが冷蔵庫に入れていたチョコレートパイを天使が食べてしまったのが意外に根深い恨みになっているのかもしれない。
「キャスー、でてこーい。飯が食えないー」
ディーンがやる気のない声を上げると、珍しくすぐにコート姿が食卓の横に現れた。
「どうした、ディーン」
「食事だ。カスティエルも席に着け」
「・・・てわけなんだ」
会話になってるんだかなってないんだかの言葉が交差した後、カスティエルは眉を顰めてサムを見つめた。
「サム。・・・・君は今この家の主か」
「そうだ」
珍妙な会話だが、本人達は真面目な顔をしている。
「では、そうしよう」
カスティエルは頷いて座り、ジョンはほっと胸を撫で下ろした。天使に正面切って否定されたら、さすがのサムもダメージを受け、呪いの反動にあっていたかもしれない。
食事中はなぜか学校の授業のことや(一体ジョンを何歳と思い込んでいるのか不明だ)仕事の様子を尋ねられたり、
「夜遊びもいいがほどほどにしなさい」
とサムにたしなめられたジョンとメアリーが時々むせ返りそうになりながら食事は終わり、どこに向かうのか固唾を飲んで見つめる家族の視線の中、サムは当たり前の顔をして2階にある自分の個室に入っていった。
ちなみにその前には
「早く寝なさい」
という重々しいお言葉とともに、各人とお休みのキスを交わしている。
部屋の扉が閉まった途端、メアリーはジョンの肩を揺すりながら、
(可愛いわよね!?ああもう、サムったら可愛いわよね!!)
と囁き声で絶叫し、ディーンは
「あいつ結婚願望あるのかなあ・・・」
としみじみ呟き、ジョンは
「まあ、あれだけ『家長』を味わったから、明日には解けるだろう」
と頷いた。そして、
(ビデオに撮りたかったわ。呪いの防御があんなに甘いのはちょっと問題だけど、でもあのサムは久しぶりに撮りたかったわ・・!)
と熱烈に囁くメアリーと一緒に寝室に引き上げた。
その後ダイニングで、
「それで、君が母親役ということなのか?」
と天使に確認されたディーンは、うへえ、と呻き、自室に念入りな施錠をして就寝したのだが、それはジョンの知るところではない。
翌朝。
サムの呪いは予定通り解けていたが、解けた呪いの反射をうっかり受けたらしいディーンが「この家の主婦である」という思い込みにはまり、両親は再び息子の奇行を複雑な心境で見守ることになる。
おわり
はい。
まったくもってどーでもいい一家の風景でございました。
でもいいの、書きたかっただけだから・・・