何事にもメリットとデメリットがあるように、仕事を兼業することにも、有益な面と不利益な面が存在する。
「ハンター」と「整備屋」「主婦」「弁護士」という職業が入り混じるW家においては、様々な書類が混ざるという弊害が頻発していた。
弁護士であるサムは今日の仕事中、訴訟資料をめくったらバンパイアの倒し方の図解が混ざっていて、思わず「わあ」と叫びそうになった。
何とか声を出すのは堪えたが、目と口が「わあ」と言っていたらしく、相手方にさんざん突っ込まれ「別件の資料が混ざっていました」となんとか突っぱねるまで必要のない汗をかいてしまった。
「だから皆も気をつけようよ」
家で夕飯を食べながらサムはカリカリして言う。
これがチョコバーの袋とかチップスの食べかすなら、まっすぐディーンを見つめて話すところだが、こと狩の資料となったら家族みんな危ない。
冷蔵庫には怪しい沒薬の材料メモが貼ってあるし、マガジンラックにはスポーツ雑誌やガーデニング雑誌と一緒に狩関係のファイルがいつも何かしら突っ込んである。ジョンの書斎はちぎった雑誌のページや新聞の切り抜きが壁一杯に貼られている。
調査中に何か考え込んでいる時などには、皆狩の資料を持って家中ウロウロするので(サムもやる)混ざる可能性は山ほどある。
食事を終えたディーンが
「サミーはポーカーフェイスが苦手だもんなあ」
とソファーでけけけと笑い、サムはギリギリと眉を吊り上げた。横にあったクッションをつかんでボカンと兄を殴る。
「なんだよ!ポーカーフェイスの練習しろよ!」
と叫ぶ兄に、
「弁護士は戦うスキルもいるんだよ!」
とサムはバフバフとクッション攻撃を続ける。
ぷんぷんしながらクッション振り回すのは弁護士の戦いじゃないよなあ、と心中つっこみつつ、まあサムはお兄ちゃん子だから、と食後のコーヒーを飲みつつ見守る両親であった。
「じゃあディーンは、普段の仕事で使う書類と狩の資料が混じるのとちゃんと分かれてるのとどっちがいいのさ!」
争いは口喧嘩に移行し、サムはソファの上でカリカリしながら口を尖らせる。
「俺は別に混じったって気にしねーもん。親父も平気だし」
ディーンは怒る弟をヘラヘラと笑って流す。視線はテレビのクイズ番組に釘付けだ。
先日の狩のとどめの最中、ジョンがラテン語のスペルを詠唱していたら、めくった祈祷書の間からジョンが出かけ間際に探していた工場の部品発注リストがバラバラ落ちて、横にいたディーンがびっくりした。
しかしジョンは慌てぬどころか、「ふ、これで明日は捜し物をしなくてすむぞ」と元気百倍、ますます力強くスペルを唱え、「ダッドかっこいー!」と釣られて元気になったディーンともども、実に効率良く狩りを終わらせたのだ。
「だからサミーもダッドを見習えよ」
と鼻先で笑うディーンに、
「だらしないのはヤなんだよ!」
と怒るサム。
頼りのメアリーもこの件に関しては、
「そうねえ」
と苦笑いをしている。たまにレシートと資料が混ざってる時があるので、強くは言えないらしい。
「・・・・僕は独立したら絶対に狩りの資料の部屋と、弁護士の仕事の部屋は分けることにする。そして絶対にそれぞれの資料は他の部屋に持ち込まないんだ」
実家の協力を諦めて、サムは将来の計画に救いを求めだした。すると、
「えー?弁護士の資料は知らねえけど、狩りの資料を一室から持ち出さないとか無理じゃねーか?」
テレビを見たまま、またディーンが茶々を入れる。
「物理的に分けるのが一番シンプルだよ」
サムがぎろりと睨むと、ディーンは首をすくめ、
「うわ、俺無理。そういう家」
と、呟いた。
「・・・・・・・・・・・」
途端にサムが黙る。
「え?なんだよ急に」
黙られたディーンが戸惑う。
「・・・じゃあ、法務関係の資料だけ隔離する。それならどうなのさ」
むすっとしたままサムが言う。
「どうって・・別にいーんじゃねーのか」
「うん」
よくわからんままに、とりあえず返事をした兄にむすっとした顔で頷き、サムはクッションを抱えてソファに座り直した。やっぱりよくわからんままにディーンは立ち上がるとフリッジからビールを出し、1本弟に渡してやる。
よくわからん、という顔をした兄と、むすっとした顔の弟はそのままソファで並んでテレビを見始めた。
これまた「さっぱりわからん」という顔のジョンに見上げられたメアリーは、
「サムはお兄ちゃん子だから」
と笑って全てを片付けたのであったとさ。
めでたしめでたし
そして件のバンパイア資料は床に散らかる紙を珍しく拾ってくれた天使が混ぜちゃったんではないかと思うな。天使にとっては全部紙。