「用件を言え。俺は忙しい」
「仕事の邪魔をする気はないよ、スミス部長。後で出直す・・・この間みたいに」
最後の一言がふいに低くなり、ディーンの身体にぞくりとした感覚が走った。
が、表情には出さずに振り払う。
「あいにくと夜は先約がある。伝えたいことがあるなら今言え」
顎を軽く上げて促す。意図的にやや傲慢な仕草で。
ウェッソンは軽く下唇を突き出すような顔で肩をすくめた。そんな表情をすると、妙に子供っぽさと男くささが混じった雰囲気になる。
「取り壊し前のビルで、行方不明者が出てるんだ」
そして、肩にかけた鞄から、新聞記事の切り抜きとプリントアウトした数枚の書類を取り出した。
「ちょっと過去のニュースを検索したら、8年前、4年前にも起きてる。データ化されてない昔の新聞も調べてみようと思ってるんだけど、もしかして4年置きに活動する悪霊なのかもしれない」
「4年に一度じゃ、今調べても分からない可能性もありそうだな」
「活動が終わってればね。前の2回では週に一度のペースで3回人が消えてる」
「つまり?」
「周期的な活動をする霊だとしたら、まだ人が消えるかもしれない」
「4年に一度の周期があるにしても、霊とは限らなくないか?」
「その可能性もある。・・その場合は警察にわかってる限りのことを通報するしかないよね。・・匿名ででも」
サムはあっさり肩をすくめる。その顔にははっきりと『管轄外だ』と書いてあって、ただ無闇に人助けをしたいわけではないらしいその割り切りぶりは嫌いではなかった。
プリントアウトされた資料に目を通す。発端が今朝の新聞だというのにこのアルバイト社員の処理能力は正直言って並外れていると心中で感嘆した。
資料を見出したディーンを前に口を噤んでいたサムが、ふと呟く。
「この間はごめん。」
「・・なんについての謝罪だ」
「慣れてるって言ってたから、つい乱暴になった」
「・・・」
「次はもっと優しくするから、挽回させて」
「二度目はない」
「どうして?」
「行きずりの奴とは1度切りだ。それから会社の同僚とはそもそも寝ない」
「例外はあるだろ。僕は行きずりの相手じゃないし、会社の同僚だけどもう寝たじゃないか」
「だからあれきりだ。二重の意味でな」
「こんな会社、いつでも辞めてやるよ。そうしたらこんな間抜けなユニフォームであんたの前に立たないで済む。・・今すぐ辞表を出してきたら、今夜部屋に入れてくれる?」
いつの間にか重なってきた指を振り払う。
「先約があると言っただろう、しつこいぞ」
「そう、残念。じゃあ、この件だけどいつ取り掛かる?」
「誰もやるとは」
「じゃあ放っておくの?人が消えてるのに」
「だからって何で俺らが」
「気付いたからだろ。人間を守るための、狩だ。・・・僕らの仕事だよ」
不意に息が詰まりそうになる。
Saving people. Hunting things,
The family business.
脳裏に浮かぶ声は自分の声のようにも、もっと違う男の声にも思える。
強く、太い、その声。
胸が掻きむしられるような感覚に襲われて、デスクに手をついた。
鈍く黒い鏡のようなデスクに映る自分の姿。
気に入りのネクタイにストライプのワイシャツ。ネクタイに合わせたサスペンダー。
僕はディーン・スミス。
スタンフォードで経済を学び、ヘッドハンティングされてここに来た。営業とマーケティングの部長。
バイセクシャルだが家族や親しい友人にはカミングアウト済み。恋人のキャシーとは1年前に別れ、以来決まった相手はいない。
仕事にプライベートは持ち込まない主義。
ゴルフは好きだか喧嘩は苦手だ。
幽霊退治なんか、仕事にする気はない-
続くかも?
いやー、リレーの方にもそろそろザッ君日誌かいちゃおうかと思いつつ、でもこの設定持ち込んだら、絶対に師匠とマザーがドン引きするだろうな・・・。この続きを書くのきっついなあ・・・自業自得だけど。忘れた頃にやろう・・・気力がわいたら・・・
一人称を僕にするか俺にするか迷いましたが、本編で最初は「僕」ラスト辺で「俺」になってたので、要はビジネス上は僕で、うっかりすると俺になるんだねということで!