「うん、イブと当日はそっちに泊まるよ。・・・いや、サンクスギビングに結構ゆっくりしたから、サムが忙しいみたいだ。空港からレンタカー借りるから大丈夫。うん、じゃあ」
ディーンが通話をちょうど切ったところで、サムがリビングに入ってきた。
「ジョン、なんだって?」
「今年はずっと家で過ごすみたいだ。ママ・メアリも元気だとさ」
「うーん、向こうから話が出るってことは、今は上手く行ってるのかな」
「だろうな」
シャツを着ながら呟くサムにのんびり答える。くっついたり離れたりをあまりにも頻繁に繰り返してくれるので、親たちの動向にぴりぴりするのは二人とも結構前にやめていた。
「飛行機何時だったっけ?」
「8時。明日は早く起きないとな」
「すごい進歩だよね、ディーンが自分から飛行機チケット取るなんてさ」
「うるせえ。車で行く時間があれば車で行くっての」
くすくすと笑う相手をじろりと睨むと、サムは肩をちょっとすくめる。
「ごめん、僕のせいだよね」
「そーだ。新年早々に面倒な案件引き受けたお前のせいだ」
このワーカーホリックめ。ボディーに一発打ち込む振りをすると、サムはノリ良くううう、と呻いて前のめりになる。
ディーンは思わず笑うと触りやすい位置に下りてきた茶色の髪をぐしゃぐしゃとかき回して、
「着替えてくる」
と自室に向かった。
着替えながら窓の外を見る。昼は晴れていたが日の暮れた今、気温は多分5度もない。これから夜になるともっと冷えてくるだろう。セーターを着てからいつもの皮のジャケットを手に取り、ちょっと考える。ジャケットを戻すと、クローゼットの奥のハンガーに手を伸ばした。
「準備できた?」
振り向いたサムはコートにマフラーを巻いたディーンの姿にちょっと目を瞠り、次に目尻をくしゃっとさせて笑った。
「それ着てくれたんだ」
黒いカシミアのロングコートは、去年サムが自分のコートを誂える時、ディーンにもと買ってきたものだ。
だがディーンにそっけなく
『そんなお上品なコート着て行く場所なんかねーよ』
とつき返され、そのときはかなりすったもんだした。
「夜だからうっかり工場の奴に見られることもないだろうしな。お前が取ったレストラン、名前からしてお上品そうだし」
何となく落ちつかなげなディーンに向けてサムは微笑む。
「使ってくれて嬉しいよ。・・・すごく良く似合ってる」
言いながら軽く眉のあたりに唇を触れる。その息が微かに震えたのを感じて、ディーンは怪訝そうに視線を上げた。
「なんだよ」
「いや、ディーンこの前運動不足で太ったとか言ってたけど、これで安心したろ?去年と変わってないよ」
僕がいくら変わってないって言っても信じないんだからさ。堪えきれなくなったのか、サムは声に出してくすくす笑い出す。
「あーあー、嬉しいよ!手で人の贅肉計るんじゃねえ、気持ち悪い」
ディーンは眉をしかめてサムの顔を押しのける。耳が赤くなる癖は相変わらずで、サムはさっきから緩みっぱなしの顔を外出用に引き締めようと必死だった。
弁護士としてのキャリアはそれなりに長くなった。ポーカーフェイスもお手の物だと言うのに、自宅の敷居を跨いでしまうともうだめだ。相も変わらず年上の幼なじみ兼恋人の一挙一動で浮かれたり拗ねたり落ち込んだり、進歩のない自分に戻ってしまう。
「お前はそれでいいのか?」
聞かれて自分の格好を見下ろす。ディーンとは型違いのやはり黒いロングコートをシャツとジャケットの上に羽織っている。オフなのでネクタイはもちろんする気がしない。
「せめてマフラーくらいしろよ。見てるほうが寒い」
きょとんとしていると、ディーンが顔をしかめて首のまわりにマフラーをかけてきた。寒さに強いサムの体質を知ってはいても、胸元を開けていたりするとディーンは自分が寒気を感じているような顔をする。
首周りに回される手が嬉しくて、サムの顔は再びデレデレと土砂崩れ状態になった。
「じゃあ、行こう」
このままでは食事の前にイルミネーションを見物する時間がなくなる。
もうほころぶ顔をどうにかするのはあきらめて、サムはディーンの背に手を回した。
「おー。今日の店は皿がでかいだけじゃなくて、ちゃんと腹に溜まる飯が出ることを信じてるぞ」
「大丈夫だって」
ディーンがにやりと笑って、先にエレベーターホールに向かうのを、鍵を閉めたサムが笑いながら追いかけた。
・・・・
白い息を吐きながら巨大なツリーを見上げる。
街の名物にもなっている3万もの電飾を飾りつけたツリーはやはり圧巻で、街には見物客が溢れていた。
「ねえディーン」
「ん?」
隣に立ってツリーの前のスケートリンク(というか滑る女の子達)に見とれている恋人に話しかける。
「今度、またポストが上がるかもしれないんだ」
「へえ、すごいな」
ちらっと振り返ったディーンは目で笑う。
「それで、この際どこかに戸建ての家を買おうかなと思って。そうしたら犬も飼えるしさ」
「いいんじゃないか。犬が飢え死にしないようにちゃんと帰れよ」
「ディーンも少し出してくれないかな。共同名義にしない?」
優しい笑みを浮かべていたディーンの目が丸くなった。
ああ、好きだな。とサムは思う。男らしくて、優しくて、でもサムの将来に関わることには少し臆病だ。
兄のように悪友のように、そして今は恋人として傍にいてくれるこの存在を、もっとしっかり掴まえてしまいたい。
サムの想像に反して、ディーンは今度はニヤリと人の悪そうな笑みで笑った。
「相場の10分の1のローン負担で豪邸住まいか。悪くないな」
「いいの!?」
自分でふっておいてサムは驚いた。ぶは、とディーンが吹き出す。
「誘ったんじゃないのかよ」
「いや、そうなんだけどさ。もっと時間がかかるかと思って、説得の為に色々用意してたのに」
実はそこのスケートリンクはプロポーズの名所だったりするのだ。
「・・・・何が仕込まれてたかは聞かないでおく」
また笑ったディーンが、寒そうに身震いをした。
「そろそろ行こうぜ。寒いし腹減った」
「うん」
並んで歩き出す。
サムがキャリアの階段を上るほどに、二人がギクシャクしてしまった頃は苦しかった。
手に入れた物や贈りたいものを、笑って受け取ってもらえる今はひどく幸せだと思う。
「可愛いメイドと女性シェフ雇おうぜ」
「それはダメ」
じゃれながらイルミネーションの輝く街を歩く。
暖かな店まで、あと数分だ。
おしまい
てなわけで、ますますエリート街道を走るサム君と、ま、いーんじゃね?俺は俺だしくれるモンはもらうし、サムは好きだぜ、と一種開き直った兄貴・・じゃないディーンのイブイブでした~
こ、この突発はセキ様サイトで拝見したイラスト(元はJ/2の秋デート)でぶもーっと妄想が発火したものであります。突発物ですみませんが幼なじみ祭り主催の咬様と、セキ様(いきなりメールしてすみませんでした)に捧げたいと思いますー♪ 返品可です・・・
元が秋デートなのに、秋アイテムを抜かしたデータを下さいました。
ふおおおお、ありがとうございますー!
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