[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
テレビからはクリスマスソングが流れ、窓の外には雪がちらつき始めている。
しかしクリスマス当夜の今日も、兄弟の泊まるモーテルに普段と変わるところはない。壁にびっしり貼られた資料、テーブル上のパソコン、出入口に撒かれた塩。
魂の欠けた弟相手に浮かれてみせる気にもならず、かといって目を離すこともできないので飲みにも行けず、ディーンは武器の手入れをしながらちびちびと酒を舐めていた。
パソコンの画面と見比べながら資料を読んでいたサムが、こちらを見ないままふと口を開く。
「クリスマスだよ。なにかしたいんじゃないの」
「なんだ、キャンベル・ベースではパーティーでもしてたのか」
「するわけないだろ」
「ツリーでも欲しいのか」
「まさか」
「だろうな」
互いに視線も向けないままの会話はそれで途切れ、部屋にはディーンが武器を並べるカチャカチャという音と、テレビからの古い映画の音楽だけが響く。
「リサの家では色々したんじゃないの?」
「そりゃな」
ツリーにターキー、プレゼントにクリスマスプディング。自分がその中にいるのが信じられなかった『普通』の光景。
「何もなくていいの?」
「欲しいのか」
「いらないよ」
「そうか」
また沈黙がおちる。
「ほんとに何にもしないの?」
「うるせえな!」
外にいくなよ!と言い置いて上着とインパラのキーを掴み、ディーンは部屋をとびだした。小一時間後、小さいツリーとターキー、酒とパイを買って帰って来る。どかどかと荷物を広げ、ツリーを部屋の隅に置いた。
「まさに無駄だね!」
サムは品物を見回すと、満足そうに鼻で笑い、資料に目を戻した。
気がすんだか、とディーンも武器の整理に戻る。
「エッグノックはいいの?」
5分後サムがまた唐突に声を上げた。
「飲みたいならそう言え!」
青筋立てながらディーンは立ち上がる。実は材料を揃えている自分が悲しい。
ほらよ、とテーブルに置いてやると、
「パソコンにかけるなよ」
と眉をひそめられる。魂の欠けた弟はとことん失礼だ。
腹を立てるときりがない。静かになっただけましだと思いつつ、自分用に作ったものを手に取る。
飲みながら思い浮かべるのは数年前のクリスマスだ。
命の刻限を感じながら、それでもこれで全て終わると思い込んでいた。
終わるどころか周り全部を巻き込むような罪を犯し、それを償おうとあがく日々が始まるなんて、夢にも思わなかった。
サム
礼の一つも言わず、笑顔一つも見せずに資料をめくりながらエッグノックを啜る姿に目をやる。
全てを背負って自分自身を地の底に投げた弟。
お前はもう十分よくやった、もう自分の幸せのためだけに生きろと言ってやりたいのに、魂の欠けた弟は、機械のような狩りを止めない。
今の彼を見て動じないのは天使と悪魔くらいだ。放っておけば親しい人間さえどんどん敵に回して行くだろう。いつか弟自身が狩られる危険さえある。
「ディーン」
答の出ない物思いは、弟の声で遮られる。振り向けば最近よくみる口元だけの笑いを浮かべた顔。
「柊飾ってあげようか」
「ああ?」
意味不明の発言に眉をひそめると、サムはさっさとどこかから小さな柊の飾りを取り出して、ピンでディーンの後の壁に止める。
「ほら」
「なんだよ」
指で指すのを追って視線を上げる。と、その動きがわかっていたように顔を寄せてきたサムと唇が触れた。
「うわ!」
慌ててソファの上で飛びすさる。
「しょうがないよ気にするなディーン」
サムがしたり顔で宥める。
「何がだよ!」
「だって柊の下だしさ」
「はあ?お前わざわざこんなもん用意して兄ちゃんにキスしたかったのか?」
「まさか。僕は気にしないけど、ディーンは理由があった方がいいだろ?」
「なんだそりゃ」
横に座ってくるサム。
「兄貴の大好きなイベントの日だろ。ぐるぐる考えるの止めれば」
別に好きじゃねえよ。
言おうとしたけれど止める。なにか不満そうにこちらを見るサムの顔が、少しだけ昔のサムのように見えたからだ。
外は雪。
テレビにはソリに乗って空をかけるサンタの姿。
「もしサンタが本当に一晩で世界中をまわろうとすると、秒速1040キロで、14500Gの負荷がかかるんだってさ」
「元気な年寄りだな」
「すごいよね」
「サンタがクリスマスプレゼントにお前の魂を置いてってくれればいいのに」
ぽつりと言葉がこぼれた。
はなからあてにはしていなかったが、クラウリーは兄弟を良いように使うばかりで一向にサムの魂を取り戻す気配がない。
「じゃあ僕には今のままの僕でいいと言ってくれる兄貴をくれ」
振り返るとおなじみになった能面のような顔のサムと目が合う。視線が絡んだ。
「・・・サンタ来ねえかな」
「実在するわけないだろ」
呟きは鼻で笑われる。
そのままのお前でいいと。
無理に危険を犯して魂を戻さなくていいと。
せめて今日だけでも言ってやれたらと思った。せめて日付が変わるまで、クリスマスの夜だけでも。
だけど開きかけた口から、声がでなかった。
テレビではサンタを信じなかった子供が、目をキラキラさせてソリで夜空を駆けていく老人を見送っている。
「ターキーもらうよ」
サムが隣から立ち上がり、パックに入ったターキーを取ってテーブルに戻る。
ディーンは飲み終わったグラスを置き、弾丸のチェックを始める。
外は雪。
明日も二人は狩に出る。
早く寝たほうがいいな、とディーンは小さく呟いた。
END