眠らなくなったサムの夜は長い。
モーテルの部屋で、サムは寝返りをうった。
まだ午前1時。
祖父サミュエルのアジトにいた時期にはこれは大した問題ではなかった。
部屋は多かったのでサムも自室を持ち、調査やトレーニングをして過ごしていたし、そもそも祖父は孫に生粋のハンターとして以上の関心を持っていなかったので、あれこれ干渉されることもなかった。
今はそうも行かない。
隣のベッドに視線を向ける。
ディーンはうつ伏せで眠っている。
「見張る」などと言っていたくせに、サムが先ほどから動いていても、目を覚ます気配はない。
だがそれが当然だ。
自分は「家族」なのだから。
ディーンはサムが灯りをつけていると嫌がる。
パソコンを使っていても「うるさい」と機嫌が悪い。
なのでサムがこうして無為にベッドに寝転がって夜明けを待っているのは大妥協なのだが、きっとディーンは理解していないだろう。
「調べ物でもしていた方が時間が有効に使える」
とサムが言った時
「だったら部屋を分ける」と言い出した。
「僕を見張るんじゃなかったのか」
と指摘すると、嫌な顔をした。
矛盾しているのは自分なのだから当然だ。
兄から言い出したのだから、部屋をわけて存分に夜の時間の活用をしても良かったのだが、ちょうど今、1分1秒が惜しいほどの調査はなかった。
だから、サムはずっと必要もない寝床で、夜明けを待っている。
眠るディーンの呼吸音だけが聞こえる。暗さに慣れた目で、眠るその顔を見つめた。
元から夜目はきく方なので、じっと集中すると睫毛まではっきりと見える。
することがないので、右目の睫毛を数えた。
まだ2時。
左の睫毛も数え、微かに開いた口が、1分間にどのように動くのか観察する。
呼吸数を数えながら、緩やかに動く背中をしばらく見ていた。
眠っているときの兄は、サムが帰って来る前の様子に近い。
ハンターとしての警戒を保てずに無防備な姿を晒している。
それでいい。
そう思う時の満足感は、昔の自分に戻ろうと決めた時に欲しかったものと近い。
気に喰わないと文句を言いながら。
あてにならない悪魔の口約束に振り回されながら。
今のサムに慣れていけばいい。
ディーンを変わらせていくことは、地の底にある『魂』を取り戻すことよりも、サムの目的に近く思える。
することがなくなったので携帯を開く。画面を向けるとまた「眩しい」と文句を言いそうなので明度を下げ、ディーンの顔に光が当たらないようにしてやる。
午前3時。
夜明けはまだ遠かった。
END
えー、寝てるだけです。無言です。誰もが一度は考える、ロボサムの夜。
これもいわゆる山なし落ちなし意味なし・・・
[11回]
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