再びのカンザス 最終回後の妄想です。 今、某有名中国のファンタジードラマを観ているのですが 仙人たちがいっぱい出て来てする活躍のほとんどを 生身の兄弟がやってるなあと思うと大変複雑です。 2021.7.4. Half of Bean |
悪魔や天使が地上に現れなくなって久しいが、幽霊や魔物は変わらずに存在する。
とあるところに家族を魔物に殺され、しかし自分で仇を討つことはできずにいる男がいた。戦う力は弱かったが、頭はよかったその男は古い文献を調べ、術式を調べるうちに他の敵討ちの手段を思い付いた。自分の肉体に古い霊を召喚し、自分の代わりに敵討ちをさせることにしたのだ。舎身呪といわれるその魔術は、代償に自分の命は無くなるが、復讐のためならばやむを得ない、仇が打てるのならば惜しくない、と男は決めた。
そして、確実に仇を討てそうな霊として男が選んだのが、数十年前にいたという、『最強にして最凶のハンター』『敵も倒すが世界も滅ぶ、ディーン・ウィンチェスターだった。
「………………………まじかよ……」
ディーンは目を開けて呆然と呟いた。
今まで何度も死んでは死後の世界から引っ張り出されてきたが、こんなにうんざりしたのは初めてだ。なにせ天国でのんびりインパラをドライブしていたのに、気が付いたらぼろい部屋で、血だらけの魔法陣の中にいたのだ。
ため息をつきながら立ち上がる。バスルームで鏡を見ると、知らない男の顔があった。
「うわあ」
これは初めてのパターンかもしれない。ここはどこで、これは誰だ。自分に何が起こったのか。
そう思いながら部屋の中をみまわすと、机の上にファイルがおいてあった。めくってみるとこの身体の名前と経歴、ここに至った事情の説明と魔物の資料があった、それにIDとまとまった現金が机の上に置いてある。
「あー…」
なんだか人柄が想像できる気がした。きっと真面目な勤め人だったのだろう。生きている時に金と資料つきで依頼をされたのであれば、普通に受けていただろうに。
ファイルを取り上げると、腕がずきりと痛んだ。血のにじんだ袖をまくると、左腕に傷が何本も刻まれている。召喚されたときに刷り込まれたのか、傷の意味は分かった。呼び出した魂に対する縛りだ。狙う敵一体につき傷一つ。相手を殺さない限り傷は消えないらしい。
「召喚される魔物連中が不機嫌なわけがわかったぜ…」
ディーンは腕を見ながら呟いた。生きている間の依頼なら受けただろうが、やっと天国でのんびりしているところいきなり呼びつけられたとなると話は別だ。自分に関係ないどこかの魔物より、召喚者の方がよっぽどムカつく。今ここに自分を呼び出した奴がいたら、すぐに首根っこ掴んで張り倒すだろう。
しかし相手はおらず、腕の傷はずきずきと痛んで、早く仇を倒せと急かしてくる。ディーンはしばらく考え、仕方が無いかとため息をついた。
さっさと片付けてもとの場所に戻ろう。
地上で何年経ったかしらないが、狩りの仕組みは変わってはいないだろう。
・・・
「まいったな……」
ディーンはものかげに隠れながらぼやいた。
敵討ち自体はさっさと終わった。はっきりいって、自分の命と引き換えに死んだ人間を召喚までしなくても、そのへんのハンターに依頼すればいいレベルだった。
この身体の持ち主の魂はどこに消えたかわからないが、使者の魂と交換なんて真似をして、すんなり天国に行けたとも思えない。もしも近くから見ていたら、さぞかし早まったことを後悔しているだろう。探してやりたいところだがそうも行かない。EMFなどを使おうとすると、ディーンの方に強く反応してしまうのだ。
そして困った点はまだある。
敵討ちが終わったのに、ディーンにはなにも変化が起こらない。腕の傷は消えたがそれだけだ。
まさか、この身体のまま生きていけということだろうか。
「冗談じゃないぜ」
この身体はまだ三十代だ。自然に他界するまで何年かかるかわからない。
さらに厄介ごとは重なっていて、狩りの現場で鉢合わせしたハンターたちにディーンは憑依した悪霊扱いされてしまい、追いかけ回されていた。ディーンもこの身体からは出たいので、最初はハンター達の前に出ようと思っていた。だがしかし相手方が悪霊を無理やり追い出す準備をし始めたので、方針を変更した。
自分でもやったことがあるから知っているが、肉体から引き剥がされた悪霊は苦しみ悶えて消えた。消えた先を考えたことはなかったが、天国に戻れる気がしない。
しかしながら憑依霊のそんな言い分をハンター達が聞くわけもなく、逃げ回るうちに追っての数はどんどん増えていく。
「いたか」
「いや、だが近くにはいるはずだ」
「裏は」
「大丈夫だ。他の奴が抑えてる」
(なにが大丈夫だ)
不思議と、まだ生きているであろう弟を探して頼ろうという気持ちは起こらなかった。自分達の別れは、あの日のヴァンパイアの巣ですませていた。
近づいてくるハンター達の視線に入らないよう、ゆっくり後ろに下がる。敵討ちの用件が終わったからだろうか。やたらと天国の光景を思い出す。
帰りたい。あの明るい場所で、いつか来る弟を待っていたかった。
考え込んで注意が散漫になっていたかもしれない。後ろに下がった背中が誰かにぶつかり、同時に腕を掴まれる。
(しまった)
振り返ると灰青の瞳がある。
「ディーン」
「へ?」
掴まれた腕と、つかんだ相手を見比べる。姿は明らかに違うが、誰だかはすぐにわかった。
「探したよ。いきなりインパラごと消えるからびっくりした」
「へええ?」
驚きが重なると変な声しかでてこない。
「おまえ、俺がわかるのか」
身体が違うのに。そう言うと灰青の瞳が苦笑する。
「当たり前だろ」
来て、と腕を引かれて歩く。不思議なことにさっきまでうるさかったハンターたちの声はもう聞こえなくなった。立ち止まった路地裏で、長い指が見たことのない形に動く。
「ディーンを呼び出した男は変な才能があったみたいだね。すごく強い陰気が憑いてる。それが色々邪魔になってたんだよ」
空中に描かれた紋様が白く光り、ああ、戻るのだと安心して息をついた。
「サム」
「あまり話さないで。気持ちをこの世に集中しない方がいいから」
「サミー」
「もうすぐいくから。待ってて」
心地よい声がする。嬉しいのにぼんやりする。
「おいサミー」
「なに?」
「来る前に、その頭どうにかしろよ」
バサバサだ。
そう言うと、ますます白く光る世界のなかで、腕をつかんだ気配が笑った気がした。
・・・・・・・・・・
サムは年食ってさらに賢くなって、天国の様子を見ることができるようになって、いつ見てもインパラを機嫌よく運転してる兄貴を見るのが日課になってたのが、ある日いなくなって慌てて調べたらこの世に召喚された上に、追われてるのを見て助けに来たんですよ。現代的賢者になっててミスターウィンチェスターとかWとか呼ばれてる。兄貴が天国に戻ったのを確認したあと、ほったらかしだった髪のお手入れして後ろで縛るようになります。
…………という説明の必要な妄想でした。