なかなかまとまらないのでちょっとずつ載せます
ディーン・スミスがヘッドセットをつけてウロウロしているのはオフィスではなく自宅だ。全社員をテレワークにしろとの指示が州知事から出ているから是も否もない。
新型ウィルスのおかげで、今や国中が厳戒態勢だ。もちろんサンドーバー•アイアン&ブリッジも例外ではない。
市場も急転直下の大崩れだが、それでもリーマンショックのような悪夢はない。今の事態になる少し前にウェッソンが、
「一回売っておこうよ」
と強く勧めてきたので株も投信も現金化していたからだ。
1日に1000ドルだの900ドルだの毎日落ち続ける相場に、売りそこねていたら生きた心地がしなかっただろうと思う。
外出も自粛、海外との人や物の移動も制限され、しかも収束の見込みも皆目見当がつかない中で、正直営業もクソもない。
既存の取引先も壊滅状態な上に、新規顧客を開拓したくても海外はもちろん国内も移動がままならない。
それでも多くの市民が自粛生活だからこそ増えているニーズもあるわけだが、残念なことにサンドーバーとしてはあまり経験のない分野だ。どちらかというと需要の増えている企業と組めないかと四苦八苦しているところだった。
「サーバーにつながるのに、なんでこんなにかかるんだ」
「仕方ないね。みんなが直接アクセスしようとしてるから」
イライラとつぶやくと後ろで声がする。
振り返るとサムが後ろでパソコンを覗き込んでいた。ぎょっとして、
(入ってくるな)
と机の下で手を振るが、相手は気にした様子もなくのんびりと、
「なに?あんたまたカメラとマイクオフにしてないの?」
などと言いながらコーヒーを飲んでいる。
「切っているとも。だが念のためだ」
むっとして言い返すが、やや分が悪い。なにせ自宅は自宅でもここはサムの方の自宅だ。
外出が制限されることになったときどうするかで少し揉めたが、結果的には大正解だった。
ディーンなどは外出もせず部屋の中で一緒にいたら互いにストレスがたまりそうだから、それぞれの家で過ごした方がいいのではないかと思ったのだが、
「そんなことしてどっちかが具合が悪くなったらどうするのさ」
というウェッソンの抗議で無しになった。
結果的には大正解だった。行動制限は当初の予想より延々と長くなっていたし、街には文字通り人っ子一人いない。時々ジョギングする住民がいるくらいだ。
ディーンは当初、外出禁止はいっても会いたく成れば多少の行き来はできるだろうと高をくくっていたのだが、とてもそんなことができる状態ではなかった。
かといって寝室がかろうじて二つあるだけのディーンの家で過ごしていたら、やはりストレスはたまっただろう。
部屋が多く、中庭もあるサムの家はある意味巣ごもりには最適だった。
部署の人員の定時連絡をチェックするとディーンはパソコンを閉じる。
「終わった?」
「ああ」
立ち上がってソファでタブレットを使っていたサムの隣に腰をかけた。
「お疲れ」
「全然」
肩に手が回ってくると軽くキスをされる。
何となくそのまま重心を移して、タブレットとサムの足の間に割り込んだ。頭と首に触れる足が固い。
「なにやってんのあんた」
サムが笑って髪をすく。
「別に」
仕事が終わればすぐにこんな緩んだことができる環境というのは悪くない。
サムはいつの間にか自宅内にトレーニングスペースを作っていたし、中庭にでれば陽にも当たれる。そしてガレージには新調したという巨大なフリッジがあるので、リスクのある買い出しも2週に1回で大体済んでいる。
これで業績さえ上げられるなら車のガソリン代も節約できるし、万々歳なのだが。ディーン・スミスは天井で回るファンを見つめながら熟考した。
一方でウェッソンの方も日々深く自分の決断の正しさを噛みしめていた。
見えないウィルスを恐れながらの生活は、未知なことだらけだ。
だがしかし、ここのところ忘れていた恋人のあだ名は「除菌男」だった。
いったい何を気を付ければいいんだ、と呆然とするサムをしり目に、ディーンは毎日ヘッドセットをつけながら、家中をせっせと除菌して回っている。
ドアノブ、引き出し、蛇口にエアコンのスイッチ。
買い出しから帰ってきたときに、片づけようとするサムを鬼のような顔で止めて、商品のパッケージを全部除菌シートで拭きだした時にはさすがにどうなんだと思ったが、それからしばらく経つと医療関係者が同じようなことを指導する動画をネットに上げたりし始めたので真剣に感動した。僕の恋人は今世界の先を行っている。
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気づくと2時なのでとりあえずここまで。
こんな感じの二人をずーっともやもや想像しておりました。
スミス部長が除菌男でよかった。安心だ。