5週間。
いくら部屋が広くたって5週間。外出禁止の指示はまだ続いている。
食料品を買いに行くか病院に行くか以外で外に出ると、驚くほどすぐに警官が寄ってくるのだ。
うっとうしいことこの上ないが、昔と違って今は街のいたるところに防犯カメラが付いているので、こっそり出かけるのも難しい。
「…他の州に行ってりゃよかった」
ソファに転がってぼやくディーンを、
「何言ってんの」
とたしなめながら、実はサムも最初のころちょっと思わないでもなかった。しかし、外出禁止を出す州はどんどん広がってああっという間にほぼ全土になったので、遅かれ早かれだったという気もする。
カフェのウェイターをしていたのできれいさっぱり失業状態のディーンと違い、サムの仕事はある程度オンラインでもできる。ただ直接会っての面談に比べてセキュリティ面の不安はぬぐえないので、どうしても後回しになるものも多い。なので日がたつにつれてどんどんディーンと同様暇な時間が増えてきていた。
食事の準備や掃除をどちらにするかを賭けて、二人はよく勝負をするようになった。
時間がないときは手っ取り早くじゃんけん。
身体を動かしたいときは腹筋や腕立て伏せ。
パズルゲーム、アクションゲーム、シュミレーションゲーム。
サムがネットショップでトランプを取り寄せてからはさらに種類が増えた。
備蓄食料が減ってくると、最後に残ったチョコを賭けた勝負も出てくる。これは壮絶だった。
サムは学生時代はともかく大人になってからは食べ物に執着を感じたことはなかったのだが(むしろ時間が貴重だった)、ネットオセロに負けて、最後のグミを勝ち誇った顔をしたディーンに食べられた時の腹立ちは我ながらすごかった。うっかり本気でつかみかかってしまったのだが、文字通り片手で捻られてしまい、兄相手の直接肉体勝負は永遠に封印することにした。
「そう怒るな。買い出し行ってきてやるから」
時々ディーンはそう言ったが、言われると毎回サムはひゅっと冷静になる。
「何言ってんの。シリアルも缶詰もまだあるだろ」
一戸建て住まいと違って庭もなければ車庫もないサムの住まいだが、買い出しは原則週に1回と決めていた。何せどこから誰から感染するかわからない。
「まあな」
そしてサム以上に食事に頓着しないディーンはそういうのが常だった。
数か月前まで想像もしなかった異常事態なのだが、サムは思ったより自分が平静だと驚いていた。ストレスを感じているのは間違いないのだが、時々連絡を取る同僚たちほどではない。
「……ディーンと二人だからかな」
なんとなくしみじみしながらつぶやくと、当の本人は「ちがうんじゃねーか」とそっけない返事を返す。
「どちらかっつーと、ガキの頃に慣れてるからじゃねーのか」
「ああ………」
言われて思わず納得する。
そういえば父ジョンから、
「危険だから家から出るな」
としょっちゅう言いつけられていたから、部屋から出ずにじっとしている生活というのは、幼少時から慣れているといえばそうだった。現金なものでそう思うとあんまりしみじみしない。
モーテルの狭い部屋で、することがなくて退屈だし、テレビはディーンが占拠しているし、食事はワンパターンだった。
「…そう思うと、今はネットがあるからいいね」
「だろ」
動画配信をそれぞれ見るのでチャンネルの争いもない。食料や物品も時間はかかるが取り寄せもできる。
「しかも金が尽きる心配もないしな」
「まあね」
父の帰りが予告より遅いと、二人はよく食べるものや宿代をどうしようとハラハラした。
だが今の部屋はサムの持ち物だし、当面食費程度なら困らない。
そして連想で思い出したが、父はしばしば約束の期間を延ばした。
「………ダッドのおかげで、外出禁止が長引いてもパニックにならずにいられそうだよ」
「ははは」
ろくでもない、と言いたげなディーンの空笑いに、なんだかおかしくなってくる。
まったく世の中何が役に立つかわからない。
終わる
なかなかコロナと関係ないネタが出ないので無理なく浮かんだもんから置いときます。
メリケンは全土ロックダウンじゃないですよね。
サミーの職場はNYじゃないと思うんですが、そこはまあ適当で。
[17回]