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海外ドラマの超常現象の兄弟(SD)を中心に、頭の中にほわほわ浮かぶ楽しいことをつぶやく日記です。 二次創作、BL等に流れることも多々ありますので嫌いな方は閲覧をご遠慮くださいませ。
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ロッキーズバー(ムパラ36無配ペーパー)

予告通りちょっぱやでのペーパーアップでーす。
S14に出てきたバーが、兄貴の脳内じゃなくて実在してたらいいよね、というところからのネタ。
特にネタバレではないのでS14未見の方もご心配なく。…多分。
いつもの酒場とそんなには違わない気もします。



ウィンチェスター兄弟が突然酒場を開いたとき、周囲はまず狩のためのカモフラージュだろうと考えた。ハンターなら身分詐称はよくあることだ。店の看板だけ出して、開店休業状態の可能性もある。どちらにせよ狩の間だけだろう。


それからしばらく時間が経った後、同じ酒場があると聞いた周囲は首をひねった。どうも本当に店として経営しているらしい。もしやすると引退準備だろうかと噂する。


やがてどうやらあの酒場は本当に兄弟の店である、さらに狩を引退するつもりも無いらしい、という確定情報が入ったところで、関係者は一気に野次馬と化した。
「よし、今までの迷惑の詫びに一杯奢らせよう」
「ウィンチェスター共に俺の酒を注がせてやるぜ!」
と盛り上がる。しかし一人で行くと追い返されそうなので、数を頼んで押しかけることにした。
「俺たちが入った時の、奴らの嫌そうな顔が目に浮かぶぜ」
「すごまれても脅されても奢らせるまで帰らないで粘ろうな!」
 円陣を組んで気合を入れる。ファイトだ。


だが、嫌がられるのを楽しみに店のドアを開けた野次馬たちを、兄弟は予期していたように満面の笑みを浮かべて迎えた。
「お、よく来たなあ! まあそこに座って飲め、一杯目は俺の奢りだ」
カウンターの中に陣取ったディーン・ウィンチェスターが、グラスにどぼどぼと酒を注いでくれる。
「……おう」
あっという間に目的は達成されたわけだが今一つ面白くない。遠路はるばるいやがらせをしに来たのだから、もっと嫌そうな顔で渋々注いでほしかった。
しかしまあ、とりあえずグラスを持ち上げると、伝票を構えたサム・ウィンチェスターが、
「オーダーは一人2杯以上で、つまみの注文もよろしく」
と畳み掛けるように注文を要求してくる。
「なんだなんだお前ら。その注文の強制は」
「うちのシステムの説明だよ」
思わず腰が引けるハンターの表情を気にする様子もなく、兄弟は伝票とメニューを構えてにこにこと迫ってくる。
「酒場が酒売るのは当たり前だろうが。うちは今、新装開店キャンペーン中だ」
「今日のお勧めはピザだよ」
キャンペーンという単語の使い方が一般的用法と違ってる気がするが問題はそこじゃない。新装開店というには時間が経ってるだろうとも思ったがそこでもない。
メニューにはピザだのチキンだの、一般的な品名が書かれているが、カウンターの奥に料理のスタッフがいる気配はない。ということはだ。
「お前らが作るのか」
「ははは」
にこやかに返されても安心するわけがない。
「お前ら、もしかして狩をしながら調理の免許をとったり…」
「ははは」
店主兄弟の笑顔は変わらず、さあオーダーしろの圧力も変わらない。だが、圧力と笑顔にあっさり流されるようではハンターなど務まらない。務めてもいいがあまり長生きしない。なので客席の現役ハンター達はタフな男の名に賭けて圧力に踏ん張った。
「酒はともかく、お前らが作る料理なんか怖くて食えるか」
と断固きっぱり拒否し、ついでにカウンター内からの物理的攻撃に備えて身構える。だが、動じない店主から鷹揚に、
「心配するな。料理はこいつがする」
と冷凍食品のパッケージとグリルレンジを示されて無言になった。みんな良く知る大手冷凍食メーカーのラベルは、ある意味安心の実績と信頼だ。
「……」
2秒ほどの熟考の後、ピザはめでたくお買い上げとなった。
「カード決済もできるよ」
とサムが横から付け加えたことも大きい。もちろん店で買うより数倍の値段にはなっているが、外食の値段としては普通だし、どうせみんな偽造カードだ。そして焼きたてのピザが嫌いな奴はあまりいない。
「焼き上がるまで二〇分くらいかかるぜ。なにか飲むか?」
グリルのスイッチを入れてから店主が言うのはわざとだと全員が確信した。なにせ2杯目からは有料だ。


「ピザが重かったらチップスやポップコーンもあるよ」
オーダー漏れを見逃す気が無いらしい弟が、ピザを頼まなかった面子に追撃をかける。もちろん有料だがピザに比べれば安い。ピザを頼まなかった者は、もうめんどくさいからそれをよこせと手をあげた。すると出されたポップコーンがやけに辛い。
「おい、塩かけすぎじゃねえのか」
 客の指摘に弟は、
「塩ならいっぱいあるし、その方がドリンクが進むかと思ってさ」
と頭を掻きつつ、てへへと笑った。
(いやお前、その顔は出すタイミングと相手を完全に間違えてるぞ)
と、その場の誰もが思う。いくら笑うとえくぼができたって、そんな可愛い子ぶったごまかしが通じるのは実の兄貴だけだ。
だが、怒鳴りかけた口は後ろで(さすが俺の弟)と言いたげに頷いているウィンチェスター兄をみて閉じられる。ウィンチェスター兄弟のブラコンぶりは世界の終末前から有名で、片方に何かあるたびに悪魔やら天使やら死神やらと取引しては生き返らせているんだぜと陰口を叩かれている。そして店に入った時から皆が感じていたことだが、この店はあちこちに仕掛けがある。弟に文句を言った瞬間に床が抜けて落とし穴で串刺しになる程度はありそうだった。


それにしてもハンターの中でも根無し草派の代表のような兄弟が、一体どうやって店を持つような金を貯め、信用皆無のハンターに貸してくれるような物件を見つけ、開店許可をとったのか。オーダーを巡る攻防がひと段落すると、話題はいよいよ野次馬たちの本題に入ってくる。
「財宝でも見つけたか」
「金持ちの愛人にでもなったか」
「遠い親類から相続したか」
あれこれ推測してみたが、兄弟は「どれも違う」としか言わなかった。


「俺の話を聞きたければもう一杯注文するんだな」
ほろ酔いになってきた辺りでウィンチェスター兄が含みのある表情で言うので、さては腹を割って話す気になったか、とハンター達もおかわりをする。すると全員が新しいグラスを手にしたのを確認したところでおもむろに、
「あれはサムがまだキンダーに通っていた頃のことだ…」
と謎の弟自慢を始めたので、フロアには一斉に罵声が飛んだ。


 


実のところ野次馬たちの推測も全くの外れと言うわけでもない。この店は金持ちの愛人ならぬ神の姉からのプレゼントだった。ハンターの仕事というのは九十九%ろくなことがないが、ごくごくたまに役得チャンスががある。数か月前、神の姉妹であるダークネスが、ほぼ一年かけたきょうだい喧嘩の挙句弟と仲直りを果たし、
「あなたは私が一番望んでいるものをくれたから、お返しに同じものをあげるわ」
と言い残して消えた。そして気がつくと兄弟はこの酒場のフロアに立っていたのだ。わかりやすいことにディーンの手には入口の鍵が、サムの手には店と土地の権利書があった。
「ディーンが心から望んでいるものが自分の店だなんて知らなかったよ」
「俺も知らなかった」
 兄弟は顔を見あわせて呟く。
アマラが一体どの時点のディーンの望みをピックアップしたのか分からないが、店内を見回すディーンがやたらと嬉しそうなのは確かだ。
「ディーンって、こういう店が理想?」
「いかすだろ?」
「ふうん」
「なんだその反応は」
「別に」
古びているというかレトロ趣味というか。カウンターといくつかのテーブル席、ジュークボックスにビリヤード台がある。サムからすると、兄のことを愛しているが趣味は合わないとしか言いようがない。ジュークボックスよりエアコンとWi-Fiをつけておいてほしかったなあというのがサムの率直な感想だ。



野次馬たちが引き上げた後、客のいない店内で、ディーンは何回目かグラスを磨き、サムは奥の事務所で伝票類のチェックをしていた。
「暇だなあ」
「暇だね」
サムは言いながら周辺の防犯カメラの映像をチェックする。とりあえず店に近づいてきそうな動きはない。
「もう閉める?」
「そうだなあ」
自分の店のいいところは夜中まで開けていてもいいし、さっさと店じまいしても構わないところだ。
「どうだ? 今週の売上は」
ディーンが尋ねるとサムはうーんと唸る。
「先週並みかな」
「ま、だろうなあ」
ちなみに先週末から一昨日まで、狩でほとんど店を開けていない。
「ある意味すごいよ。ずっとこんな売上しかなくても続いてるんだから」
サムは感心したように店の関係書類をさっきからひっくり返し続けている。
「嘘みたいだけど今月もまだ大丈夫だ」
ついにサムがそう結論付けると、ディーンがヒューっと口笛を吹く。
「サンクス、アマラ」
「止めてくれ。出てきたらどうするんだよ」
天を仰いで投げキッスをするディーンに、サムが顔をしかめた。
「うちの店だって売り上げが全然無いわけじゃないんだよ」
また伝票に目を戻しながらサムが言う。
「ただ、修理代がかさみすぎてるんだ」
途端にディーンの顔が不機嫌になる。
「しょうがねえだろう。俺たちは有名人だし」


そう、ウィンチェスターの店の存在は一般市民には全く知られていないが業界仲間と敵にだけは大々的に拡散されている。先日のようにハンターが冷やかしに来ることもあるが、一番多いのはありがたくないことに魔物の復讐だ。
悪魔と天使と幽霊は魔法陣や塩・鉄で防いでいるが、その他の魔物が客のフリをしてちょくちょく来る。ことごとく撃退はしているが、その度に店内が盛大に壊れるので、いくら売り上げが上がってもおいつかなかった。正直なところ兄弟どちらも心の中では、『どうせそんなに長くは持たないだろうから、行き詰まったら手放せばいい』と思っていたりする。


「やっぱり支払いが無いって強いなあ」
サムはしみじみと呟く。自分たちの所有する物件で自分たちが働けば、賃料も人件費もかからない。酒とつまみの仕入れは必要だが、まあ、売れなかったら最終的には自分達で消費するという手もある。
「冷凍食品ばっかりじゃ身体に悪すぎるけど」
「お前が好きな野菜も買っときゃいいだろ」
「……店でどう出すんだよ」
オーナー兄弟の経営姿勢はこのような状態で、ハンター達の邪推ではないが、金持ちの愛人のひまつぶしと言われてもあんまり遠くないものではあった。


だが、ハンターが大っぴらに情報交換をしたり飲んだりできる店は意外に需要があった。テーブルの上でマジックアイテムのやり取りをしても誰も気にしないし、偽造カードがエラーを起こしても、「おいおい」と言われるくらいで、何度でも別のカードを試せる。相変わらず魔物も来るが、ハンターがぞろぞろいると黙って帰ることも増えた(魔物が暴れないで大人しく飲んで帰る時は店主兄弟はわざわざ追わない)。
儲からないがつぶれない。
 大変微妙な状態で酒場は続いている。おかげで狩に行く頻度が少しずつ下がってきた。それは少しばかり狩りに疲れた兄弟の心境にちょうど良くもあったのだが、神の姉がそこまで知っていての計らいだったかどうか、確かめるすべはない。



終わる



 

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