目を覚ますともう部屋は明るかった。
「おはよう」
テーブルの上でパソコンを開いていたサムが顔を上げる。
「朝飯買ってあるよ」
「ああ」
久しぶりに眠ったせいかなんだか体が重い。
昨日はサムが買ってきた食料を詰め込み、ビールを飲んだら一気に眠気がきた。久しぶりのシーツの感触が離れがたくて、ディーンはベッドの上でごろごろ転がる。
「まだ寝る?」
「んー…」
煉獄でも横になって休むことはあった。木の根元だの、見通しのいい草っぱらだので。
それでも休憩にはなったが、快適さが違う。スプリング万歳。
起き上がろうかもう一度寝ようか少し迷っているところに、いい匂いが鼻をついて一気に目が覚めた。
「コーヒーか!」
「そうだよ」
ぱっと飛び起きるとサムが驚いたような顔をする。テーブルの上に置かれたカップを掴んで勢いよくがぶりと一口飲んだ。
「あっちい」
「当たり前だよ」
呆れたようにサムが言う。
「大丈夫?」
「平気だ」
驚いたが火傷をするほどではない。先程よりはゆっくりもう一口飲んだ。こうばしい香り。暖かい。
「まさに天国の味だな」
そう言うとサムはおかしそうに笑った。
「それで、こっちの方はどうだったんだ。ディック・ローマンの影響は」
サムが譲った二杯目のコーヒーをすすりながらディーンが尋ねた時、サムは3秒たっぷり何のことを訊かれているのか分からなかった。
そしてようよう、リヴァイアサンの首魁の名前だったと思いだす。
「ああ、うん、もう大丈夫だよ、全然」
サムは必死に頭を巡らして、2年前の状況を思い起こそうとする。
「…らしいな」
サムが口を開くより前に、その間の開き具合からディーンは感じるものがあったらしい。なにやら考えるように黙り込む。
「で、今は何か事件を追ってるのか」
これにはサムは遠慮なく笑う。
「そりゃ、兄貴だよ。ディーンがどこにいるか探してた」
「……おう」
「やりたいならいくつかそれっぽい事件があるよ。調べる?」
ディーンが寝ている間、サムは結局眠れずにネットを見ていたのだ。
コーヒーをちびちびすすっているディーンは少し眉を上げた。
「もうか?」
「まだ僕らの範疇かわからないけどね」
「うーん」
ついにコーヒーを飲み終わり、ディーンは、ポンとカップをゴミ箱にむけて放る。外れて床に転がるそれを、サムは黙って拾うと改めてゴミ箱に捨てた。
「それとも今日は淹れたてコーヒーでも飲みに行く?今月のフラペチーノとか」
「いいな!」
ベッドにまた転がっていたディーンががばりと起きた。
迎え方が違うと、こんなにも兄との会話は変わっていたのか。
ディーンは寝癖だらけの頭をして、平和そうに頭を掻いている。
なんだか眩暈がしそうな気がしながら、サムはこれからの行動を考える。
「そうしたら、まず資金を調達してから兄貴の着替えを買って、この辺で一番美味いカフェを探そうか」
緊急時の資金は各地に隠してある。幸いここからそう遠くない。
だがそう言うとディーンはちょっと目を細めた。
「お前、ほんとにサムか」
あまりに安い疑われ方にサムも自然と半目になる。
「………クリストクリストクリスト、今聖水はないからね」
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何か平和なことをしたかったのですが、コーヒー飲むしか思いつかなかった今回。
兄貴はブラックのイメージですが、パイも好きだから意外にクリームもりもり系も飲むかな。