「………」
「………」
ディーンは弟が可愛そうでかわいそうで、何と言って声をかけていいか分からなかった。サムはディーンに伸し掛かったままの体勢で、さっきまでのうれしさ満載の笑顔から、今はなさけなさ全開の顔で眉を下げている。
お互いにさっさと全部脱いでいるのになんてこったろう。悲惨だ。
「あの、さ、ディーン」
「ん?」
「普段はこんなことないんだ」
「ああ」
男としてこれは辛いよな。わかるぜ。
いや、兄ちゃんは無いから想像もできないけどな。ははは。
一生気に病むだろう失態を慰める言葉もないので、せめて頭を撫でてやる。よしよし。
しばらく撫で続けていたら、うるさそうに掴まれて、その代り手のひらに音を立ててキスをされた。お、生意気なことをしやがるな。と思っていたら人の手をそのまま下に持っていく。おい、何させる気だ。
抗議しようと思ったが、そのまま顔が近づいてきたのでできなくなる。
ついでにサムの手が身体を撫でながら降りていき、一方的にこちらにさせるわけでもなく、ギブ&テイクにしようじゃないかと示してきたのでそれならまあ、とリクエストに応えてやることにした。
「………」
「………」
しばしの時間の後、二人は再び沈黙する。
言っておくが嫌なわけではないのだ。サムの方もまんざらではない顔をしているからそうなのだろう。だがしかし身体が反応しない。お互いに。
「…なんでだろう」
しばらくした後、ついにサムが言った。今度は悲しいというより納得いかん、と言いたげな顔になっている。
「ディーン、気持ちいい?」
「ああ」
「じゃあなんでなんだろう…」
ここで断っておかなくてはならないのは、サムの口調はもはや睦言というより不可解な謎の考察になっていることだ。あと話しながらじーっと人の身体を故障したみたいに見るのを止めろ。
「まあ、お互い大分飲んだしな」
尋常じゃない一線を越えるには多少勢いづけの燃料が必要だったのだが、今ちょっと首を向けてみるとモーテルの小さなテーブルにはウィスキーの瓶がゴロゴロしているので、さすがに勢いをつけすぎたかもしれない。
「今日はこの辺にして、また今度ってことにしようぜ」
状況判断の結果、お兄様がこの場面にふさわしい事態の収拾を申し出てやったというのに、サムは
「やだ」
と改めて伸し掛かってくる。
「やだってどーすんだ、どーしようもねえだろうが」
まっすぐ睨んでそう言うと、こんなところで眉を下げた情けない涙目を出してきた。
「…しなくてもいいから一緒に寝ようよ…」
「………おう、まあ、そりゃいいけどな…」
何もしないで一緒に寝て何が面白いのか疑問だったが、ぐすぐす言いだしそうな相手がめんどくさかったのでもういいことにしてやった。
で、どーすんだ、と見ると、なんだかいそいそと背中から抱え込んでくる。
(普通こりゃ、終わった後の体勢だよなあ…)
突っ込もうかと思ったが、もう色々めんどくさくなってきたので目を閉じる。
気温の高い日だったが、エアコンの効果で存外背中の体温も鬱陶しくなかった。
翌朝。
抱きかかえられたままで振り返ると、弟が何とも困惑した顔をしている。どうやら昨夜のはっきりした記憶がないらしい。
「ディーン、僕たち昨日…」
「やってねえぞ」
端的に教えてやると、「だよねえ」とサムは安心したようにため息をついた。
おわる
ここまで書いといてなんですが、8周年の記念がこれってアレですね。
しかし久しぶりに3行以上の文書けたから消さずに載せちゃおう…
むぱら、受かりますように。受かりますように~
[20回]